小さなことでも自分を変えていく

磯部 一方で、加害者性を自覚しすぎるのも問題かもしれませんね。結局、どっちもどっちということになって、身動きが取れなくなってしまいますから。

開沼 「どっちもどっち問題」ですね。

磯部 「確かに東電は悪い、しかし、自分たちも彼らがつくった電力を無自覚に享受してきた点で加害者である。だからこそ、これからも考え続けていかなくてはならない……」と深刻ぶって何もしないみたいな。そもそも、「自分たちにも罪があることを自覚しなければならない」というのは伝統的な左派の物言いですよね。

開沼 そうですね。

磯部 原罪というのは生まれ持って背負った、決して償えない罪という意味ですが、それよりは、生きていくなかで犯してしまった罪だと考えたほうがいいと思うんですよ。

 先ほどのクラブの例えだと、ポイ捨てをしていることを反省して、やめればいいわけで、その罪は償える。そして、同じようなことをしている人がいたら注意する。ものすごく当たり前の話をしていますけど(笑)。まずは、自分を変えること、次に他人を変えることが重要なのではないでしょうか。

開沼 なるほど。

磯部 人間は、そして、社会はより良くなるというイメージを持つことが大切だとも思います。

開沼 「どっちもどっち」で、それが悪しき相対主義になってしまわないように、絶対的なものも据えていくという話。これは非常に重要ですし、一方で、その絶対性も、どこから見るかによってまったく違ってくることがありますよね。

磯部 まぁ、原発の問題なんかは様々な要因が複雑に絡んでいるので、なかなかこれといった答えは出ないと思います。ただ、クラブと風営法の問題はもう少しシンプルです。だからこそ、自分はそれを取っ掛かりに、社会の変え方について考えてみたいと思っているんです。

真の意味で社会を動かす運動を実現するために何をすればよいのか。最終回では、流行もので終わってしまうことのない活動の姿を探る。次回更新は、8月5日(月)を予定。


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