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ニッポン 食の遺餐探訪

日本独特の道具「巻きす」に見る
“ムダ”が美しさを生む日本のものづくり

樋口直哉 [小説家・料理人]
【第9回】 2013年8月7日
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「巻きす」完成品。竹の青さが、際だつ。不均一な自然素材を使いこなす職人の技術の粋だ

 巻きすは、日本独特の道具である。

 日本料理で巻きすは、さまざまな場面で使われる。巻き寿司をつくるときはもちろん、大根おろしや茹でたホウレン草の水気を絞ったり、卵焼きの形を整えたり、といった具合だ。まず見た目に清潔感があって、とても具合がいいので、ひとつ新しいものが欲しいと思った。

 ところがなかなか具合のいいものがない。店頭に並んでいるのはプラスチック製やシリコン製といったものばかりで、いよいよ見つからない。

 「そもそも巻きすってどこでつくってるんだろう?」

 と、疑問に思い、インターネットで検索すると、一軒の簾(すだれ)屋がヒットした。

 「すだれ屋?」

 夏の涼をとるために窓などにかけて使うあのすだれである。

 震災の年、節電要請に応えるために一時的に簾が売れた、というニュースは記憶に新しい。その簾屋のホームページのカテゴリに「小物すだれ」というのがあり、そこに「巻きすだれ」というのがあった。

実は“すだれ”の仲間
「巻きす」づくりは冬だけの仕事?

 「なるほど、巻きすだれ。巻きすは名前の通りすだれの一種だったのか」

 早速、つくっているお店を訊ねてみた。

 場所は台東区千束、材木問屋街にほど近い通り沿いに『田中製簾所』はあった。創業から120~130年の老舗だ。通りからは看板代わりのすだれが見え、店内に足を踏み入れると竹やゴギョウの青い香りがほのかにただよい、吊された風鈴の音色が響いていた。

 「すみません、巻きすを探しているんですが、ここでつくっているんですか?」

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


ニッポン 食の遺餐探訪

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。日本料理はここ十年余りの世界的な流行になり、外国の料理人の多くも関心を持っていて、誰もがそれを理解しようとしている。しかし、当の日本人の多くは日本料理を理解できていないのではないか。そこでこの連載では、日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて、私たち日本人が知らない日本の“食の遺餐”を紹介していく。 

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