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ニッポン 食の遺餐探訪

名脇役だけど地味で儲からない世界
日本独特の道具「おろし金」職人が生き残れた理由

樋口直哉 [小説家・料理人]
【第1回】 2012年12月5日
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はじめに、前口上のようなものを。

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。『和食を世界に発信』という見出しで新聞などでも紹介されていたのでご存知の方も多いと思う。狙いとしてはユネスコに登録することで、減ってしまった観光客を再び呼び込みたいという目論見があるようだ。

たしかに日本料理はここ十年余り、世界的な流行になっている。海外にある日本食レストランの数は三万軒を越え、料理の世界でも外国のシェフの多くが和食に関心を持っている。日本料理に興味がないのは逆に日本人の方ではないか、と思うほどだ。

僕がフランス料理をはじめたばかりの頃、尊敬するフランス人のシェフが「どうして日本人はわざわざフランスまできて料理をするんだろう」と不思議がっていた。「日本には素晴らしい食文化がすでにあるのに」、と。その時の僕にはその意味がよくわからなかった。今でも完全にわかっているとは言い難い。

「和食ってどういう料理なんですか?」

外国人からそう質問されると僕は結構、困ってしまう。だから、僕は日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて色々と教えていただくことにしたのである。

実は日本にしかない独特の道具だった!
ただの銅板が職人の手で「おろし金」になるまで

 日本料理は特徴的である、とよくいわれる。でも、具体的にどのあたりが独特なのだろうか。

大矢製作所で作られている銅製のおろし金。羽子板の形は江戸時代から変わっていないという

 例えば「おろす」という調理法がある。この調理法はフランス料理ではまず見られないし、中国料理にもない。そもそもおろし金という道具自体、日本にしか存在しないらしいのだ。おろし金の歴史は古く、『和漢三才図絵』という1712年に江戸時代の百科事典にもすでに現在の形のものが掲載されているという。生魚や天ぷらの食当たりを防ぐための薬味として、すでに江戸時代から欠かせないものだったようである。

 僕らは埼玉県和光市にある大矢製作所を訪れた。銅製のおろし金をつくっている工房だ。

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


ニッポン 食の遺餐探訪

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。日本料理はここ十年余りの世界的な流行になり、外国の料理人の多くも関心を持っていて、誰もがそれを理解しようとしている。しかし、当の日本人の多くは日本料理を理解できていないのではないか。そこでこの連載では、日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて、私たち日本人が知らない日本の“食の遺餐”を紹介していく。 

「ニッポン 食の遺餐探訪」

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