2014年4月に実施予定の消費増税を巡り、安倍首相は、増税がマクロ経済に及ぼす影響を検証する場の設置を指示した。増税に慎重な浜田宏一内閣参与らも出席し、複数案((1)予定通り14年4月に8%、15年10月に10%に2段階で引き上げる、(2)最初に2%増税、その後1%ずつ増税、(3)毎年1%ずつ増税、(4)増税の先送り)に分けてヒアリング・検証する模様だが、平成版・金融危機やリーマンショックが再び起こらない限り、予定通り実施するのが望ましい。むしろ、増税を予定通り実施しないのは以下の3つの理由から誤った政治判断である。
今そこにある「財政の限界」
1997年京都大学理学部卒、一橋大学博士(経済学)。大蔵省(現財務省)入省後、財務省財務総合政策研究所主任研究官、一橋大学経済研究所准教授などを経て、2013年4月より現職。内閣府・経済社会総合研究所客員研究員、経済産業研究所コンサルティングフェロー、内閣府・経済社会構造に関する有識者会議 制度・規範WG「世代会計専門チーム」メンバー。専門は公共経済学。著書に、『2020年、日本が破綻する日』、『日本破綻を防ぐ 2つのプラン』(共著)、『アベノミクスでも消費税は25%を超える』など。
まず、第1の理由は「財政の限界」である。そもそも今回の5%増税が「止血剤」に過ぎないことは、拙著『アベノミクスでも消費税は25%を超える』(PHPビジネス新書)でも指摘している。というのは、米アトランタ連銀のブラウン氏らの研究(Braun and Joines, 2011)の試算が明らかにするように、もし日本経済がデフレを脱却し、2%インフレを実現した場合でも、段階的に消費税を増税するケースでは、ピーク時の消費税率は32%にも達する可能性が高いからである。
しかもこの試算は、相当厳しい「政府支出削減プラン」の実行を前提にしている。具体的には、(1)「高齢者の医療費窓口負担を20%とする」(2)「年金給付の所得代替率(注1)を50%から30%に引き下げる」(3)「政府支出(社会保障を除く)を一律1%削減する」といった削減である。そもそも2%インフレが恒常的に実現できるか否かという問題や、このような厳しい削減プランが本当に政治的に実行可能か否かという問題もあるが、それでも、財政の安定化のためには、ピーク時の消費税率は32%に達するのである。この点、報道ベースから伝わる安倍首相の現状認識は甘く、日本財政を巡る現状を正確に把握しているか疑問が残る。
(注1)所得代替率:年金額がその時点での現役世代の平均収入(ボーナス込みの手取り賃金)の何割かを表す指標をいう。