来年4月の消費税率の引き上げ(5%→8%)を予定どおり実施するか否を巡って議論が続いている。政府は、60人にのぼる有識者から増税実施の是非について意見を聞いた。いろいろな意見を聞いて判断すればよいが、最後は多数決で決めるのだろうか。政府は常に様々な制約と不確実性のなかで政策判断をしなければはならない。政府は全知全能の神ではないからだ。筆者自身、経済の実態などについての情報を十分持ち合わせていないが、本稿では、財政再建と経済成長の関係に焦点を当てつつ、消費増税の問題を論じたい。先に結論を申し上げると、増税の短期効果と中長期効果を区別することである。すなわち、短期のデフレ効果を許容しつつ、中長期には、政府の政策遂行の信頼性を高めることにより、財政健全化と持続的な成長を両立させることである。
なぜ消費税増税実施か否かを
いま議論しているのか
明治大学公共政策大学院教授 1960年生まれ。1985年、東京工業大学大学院修了(工学修士)後、大蔵省(現財務省)入省。内閣府、外務省、オーストラリア国立大学、一橋大学などを経て、2012年4月から現職。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクス修士、政策研究大学院大学博士。専門は予算・会計制度、公共政策・社会保障政策。著書に『財政規律と予算制度改革』(2011年)。
そもそもなぜ消費税率の引き上げを実施するか否かを議論しているのか。昨年8月に自公民の賛成で成立した社会保障・税一体改革関連法うち、「社会保障の安定財源の確保等を図る税制の抜本的な改革を行うための消費税法等の一部を改正する等の法律」の附則第18条がその根拠となっている。
それを要約すれば、消費税率の引き上げに際しては、「経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、(中略)、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。」とされている。
この条文を素直に読めば、来年4月の消費税率の引き上げは、いろいろ勘案して止めることができると解釈できる。「総合勘案」なので、景気が悪い場合でも他に理由があれば増税できるし、景気が良い場合でも同様に増税しないことができる。要は、法律上、増税するか否かの基準はあいまいであり、その時の政権の「判断」だということである。