いよいよ来月からNISAの口座開設がスタートします。上場株式および株式投資信託の値上がり益、配当金、分配金に対して非課税になるこの制度。その中核となる商品は、やはり小口で分散投資が出来る投資信託です。資産形成に活かせる投資信託の活用法、選び方はどういうものなのか。バンガード・インベストメンツ・ジャパン代表取締役の加藤隆氏と、セゾン投信社長の中野晴啓氏の熱い対談をお送りします。

投資信託の平均保有期間は2.2年

中野 先日、あるニュースで、日本の投資信託の平均保有期間が2.2年であると報じられていました。しかも、4000本以上あると言われている日本の公募投資信託のうち、7割が毎月分配型をはじめとする多分配型の投資信託なのですね。こうした現状を見ると、日本にはまだまだ投資信託の長期保有が根付いていないという印象を受けます。

加藤 そうですね。最近、新規設定される投資信託を見ていると、毎月分配型ファンドに加えて、通貨選択型ファンドやブラジルレアル建てファンド、あるいはカバードコール戦略を用いた三階建てファンドなど、投資家がそのリスクの特性や、自分の投資目的との適合性を十分理解しているのか、首をかしげたくなるケースが増えています。昔に比べると、長期投資には適さないような投資信託が増えている印象を受けますね。

タイミングを狙った投資の<br />多くが失敗に終わる理由中野晴啓(なかの・はるひろ) セゾン投信株式会社 代表取締役社長。公益財団法人セゾン文化財団理事、NPO法人「元気な日本をつくる会」理事。1963年東京生まれ。1987年明治大学商学部卒、クレディセゾン入社。セゾングループの金融子会社にて資金運用業務に従事した後、投資顧問事業を立ち上げ運用責任者としてグループ資金の運用のほか、外国籍投資信託をはじめとした海外契約資産等の運用アドバイスを手がける。その後、(株)クレディセゾン インベストメント事業部長を経て2006年セゾン投信(株)を設立、2007年4月より現職。米バンガード・グループとの提携を実現、現在2本の長期投資型ファンドを設定、販売会社を介さず資産形成世代中心に直接販売を行っている。また、全国各地で講演やセミナーを行い、社会を元気にするための活動を続けている。『運用のプロが教える草食系投資』(共著・日本経済新聞出版社)、『20代のうちにこそ始めたいお金のこと』(すばる舎)、『30歳からはじめる お金の育て方入門』(共著、同文館出版)、『年収500万円からはじめる投資信託入門』(ビジネス社)ほか多数。

中野 これは日本独特の背景があるように思えてなりません。高い分配金を出すために、このようないわゆる「三階建て(毎月分配、通貨選択、カバードコール)ファンド」が売れてしまうと、販売金融機関は、「同じタイプのファンド」を投資信託会社に設定しろと迫るんです。

加藤 分配型ファンドの全てが悪いというわけではないと思うんですよ。ただ、問題は誰のためにその投資信託を作っているのか、ということです。たとえば毎月分配型ファンドを、これから長期的に資産を形成していくべき若い人たちに対してどんどん販売していたり、一方、高齢者に対してブラジルレアル建ての通貨選択型ファンドを販売していたりする。こういった販売金融機関の姿勢を見ていると、本当にお客様に対してきちっと商品の内容や、運用にともなうリスクを説明しているのか、疑問に思わざるを得ません。

中野 どうして日本には長期投資の文化が根付かないのか。それを今日、加藤さんと徹底的に話してみたいと思うのですが、私はこの問題の根っこは販売金融機関の姿勢にあると考えています。

加藤 それは大きいでしょうね。投資信託会社(投信を設定して、運用を行なう会社)が次々に新しいファンドを設定しているのは、販売金融機関(証券や銀行など投信を売っている会社)の要望が多いからでしょう。

 一時はグロソブ(グローバル・ソブリン・オープンという資産残高が日本一の投資信託。一時は5兆円を超えていた。毎月分配型の先駆け)が非常に売れてこの手のファンドが激増したわけですが、そのブームが去ると、今度は通貨選択型ファンドを次々に設定する。

販売金融機関が購入手数料欲しさに、新しいファンドに乗り換えさせようとしていると見られても仕方のない状況です。

 その要望に応えるため、投資信託会社は販売金融機関から言われるがままに新しいファンドを設定するわけですね。そして、乗り換え営業によって、せっかく残高が積み上がっても、古いファンドはどんどん解約されてしまう。結果、ほとんど残高のない、死に体のファンドばかりが残るわけですが、この手のファンドも運用されている限り管理コストがかかる。その管理コストを補うために、高い手数料の投資信託を新規設定するという悪循環が続いています。

悪循環に陥る既存の投資信託会社。
これをなくすには新しい参加者が必要

中野 最近、新しく設定されるファンドの信託期間を見ていると、5年というように短いものが増えてきています。日本株であれば、日本経済を応援するために、日本株を組み入れて運用するファンドなのに、信託期間は5年。ちょっとおかしな話ですよね。

加藤 確かに。このような悪循環を断つためにはどうすれば良いのか。そんなことを時々考えるのですが、やはり新しい参加者が必要だと思います。たとえばセゾン投信のようなね。少なくとも、今までのビジネスモデルで経営している既存の投資信託会社や販売会社に改革を求めても、それはもう無理なんじゃないか。なぜなら、今まで長年やってきたことの自己否定になりかねないわけですから。

中野 それと共に、投資家側の意識改革も必要でしょうね。確かに、立派な看板を掲げている投資信託会社はたくさんありますが、それに騙されないことが大切です。日本には現在、70社を超える投資信託会社がありますが、世間では本当に有名な、一流とされている金融機関の名前が掲げられている。でも、そういう金融機関系列の投資信託会社が、蓋をあけてみると、手数料稼ぎの商売をやっているという現実に、もっと目を向けるべきでしょう。

 冒頭で、日本の投資信託は平均保有期間が2.1年という話をしましたが、ということは10年間、投資信託で運用している人は、この間に5回、新しいファンドに乗り換えさせられていることになります。仮に購入手数料が3%だとしたら、3%×5回で15%ものコストを、意味もなく払わされていることになります。コストは確実なマイナスリターンですから、その分だけリターンが目減りしてしまいます。そこのところを、投資家はもう一度、よく考える必要があります。