先々週末の日経新聞に、会社法を改正し第三者割当を規制する方向で法務省が動いているという記事があったが、ちょうどいま私が取り組みつつある論文のテーマがまさに第三者割当であったので、今回のコラムは第三者割当を取り巻く論点について整理してみたい。

 第三者割当は、企業が特定の投資家に対して新株を割り当てることで資金調達をするもので、これは株主総会の承認を得る必要がなく、取締役会の合意だけで実行が可能である。もっとも、第三者割当によって既存株主の利益が大きく毀損される場合などは、既存株主は訴訟を起こすことも可能である。しかし、訴訟の手間暇コストを考えるとあまり現実的とはいえない。よって、多くの場合は、取締役会で決議されればほぼ確実に第三者割当は実行可能である。

手間暇コストのかからない
資金調達手段

 通常の公募増資の場合は、主幹事証券会社に広く株式を販売してもらうため、手間暇コストは高くなる。発行に際しては、経営陣が多くの機関投資家を行脚し、調達する資金の使途や、今後の企業の成長戦略をとつとつと説明して回る(ロードショー、IRミーティング)を行なう必要もある。こういう既存株主、新規株主との対話を経た後に、やっと新株を発行することができる。株主や市場とのなんらかの合意やコンセンサスを得て発行するのが公募増資ということになる。

 その点、第三者割当は、引き受けてくれる投資家との相対交渉ですむため短時間で実施が可能である。今回のような想定外の金融危機が発生し、急場凌ぎのお金が必要というときなどは重宝する資金調達手段であろう。ただし、既存株主とコミュニケーションをする必要がないということで、既存株主をないがしろにする第三者割当も見受けられる。今回の規制議論はそういう案件が目に付くようになってきたのでお灸をすえようというのが主眼である。

株価に与える影響は、
短期でプラス、長期でマイナス

 第三者割当はそんなにも市場から評判が悪い理由は何なのだろうか? そこで、過去に発表された第三者割当に関する学術論文をあたってみると、アメリカでも日本でも第三者割当を実施する企業の株価は発表後プラスとなることが報告されている。特にアメリカにおいては、公募増資の場合は発表後に株価がマイナスことと対比して非常に興味深い。では、なぜ第三者割当を発表すると株価はプラスの反応を示すのであろうか?

 その学説として主なものに2つある。ひとつはモニタリング仮説。これは、第三者割当を引き受ける投資家が、今後大株主として企業の経営をモニターしていくであろうことから、経営の規律が高まることによる業績向上効果を期待するものである。もうひとつは保証(certification)仮説。これは、第三者割当を引き受ける投資家は、一般投資家よりも当該企業について詳しく、より多くの情報を有していると想定されるが、そのような情報量において優位にある投資家が当該企業の株式を購入するということは、その企業の株価にお墨付き(certification)を与えているという説である。