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ニッポン 食の遺餐探訪

世界が認める“日本人らしさ”とは何か
「馬毛の漉し器」が象徴する我々の武器

樋口直哉 [小説家・料理人]
【第11回】 2013年10月2日
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 先日、『世界料理学会 in HAKODATE』というイベントに行ってきた。料理学会というのは聞き慣れないイベントだと思うが、世界中の料理人や研究者や科学者などが集まり、料理についての最新の知見や研究成果を発表し、来場者とシェアするイベントで、世界中のあらゆる都市で開催されている。函館の学会はそのなかのひとつだ。

 そのなかで、フランスで二つ星を獲得した日本人のシェフ、佐藤伸一さんの話がとても印象深かった。

 「私たち、外国で働く日本人シェフは当然、『日本人らしさ』というものが求められています」

 佐藤さんはそう言った。

 「フランス人のような料理をつくるのなら、わざわざ日本人がつくる意味がない、という風に評価されてしまうからです」

 それは醤油や柚子といった和の風味だろうか。

 そうではない、と佐藤さんは考える。たしかに醤油や柚子に代表される物質的なものは別に誰でも使うことはできる。

馬毛の漉し器。馬の毛は他の動物の毛と違い、断面が鋭角。そのため、昔から裏ごし機に使われてきた

 では、日本人らしさ、とはなにか? 日本人らしさ、とは『日本人の繊細な味覚を通した料理(味)』なのだ、と佐藤さんは言う。

 「時に繊細すぎて、力強さがない、と評されるのも事実ですが、それこそが日本人にしかつくれない料理であり、私たちの個性だと思っています」

 海外で成功するシェフにはひとつの条件がある。『日本人らしさ(あるいは日本的である)』ということをうまく使って存在感を示していることだ。これはサッカー選手やデザイナー、あるいは海外に進出する日本企業にも同じことが言えるかもしれない。

 日本人の味覚が他の民族に比べて、繊細であるという証拠はどこにもない。味というのは文化や歴史、気候風土によって形成される要素が強いからだ。あるいはファストフードに代表される味が席巻したことで、日本人らしい味覚は損なわれはじめた、と指摘する人もいる。それでも、日本人がつくる工芸品や建築などに、繊細さという要素を感じるのは僕だけではないだろう。

 今回、紹介するのはそんな日本の繊細さを象徴している道具『馬毛の漉し器』である。

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


ニッポン 食の遺餐探訪

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。日本料理はここ十年余りの世界的な流行になり、外国の料理人の多くも関心を持っていて、誰もがそれを理解しようとしている。しかし、当の日本人の多くは日本料理を理解できていないのではないか。そこでこの連載では、日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて、私たち日本人が知らない日本の“食の遺餐”を紹介していく。 

「ニッポン 食の遺餐探訪」

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