芸術の素養がゼロでも楽しめる <br />紙だからこそ成立する<br />創刊60年の「芸術新潮」米谷一志編集長。9人の編集部員のうち芸術関連の学部の卒業者は2人。
Photo by Ryosuke Shimizu

「芸術」と聞いただけで、難解で素人には近づきがたいというイメージを抱く人は多いのではないだろうか。

 筆者も絵を描くのがとてつもなく下手で、小学校時代の図工や技術の成績はほとんど最低点だった。当然、好きな画家の名前を上げることなんてできないし、その方面の知識は皆無。ましてや美術史などかなり縁遠い存在だった。

 しかし、この2年ほど、芸術新潮を定期購読している。ふらっと入った書店で、何度か手に取るうちに、雑誌としての面白さを感じて、ついには購読申し込みをしてしまったのだ。

 そんな経緯もあり、業界紙・専門誌を訪ねる連載の7回目は芸術新潮の編集部にお邪魔した。

 一人の読者として感じるのは、芸術新潮の良さは、「芸術に詳しくない人でも楽しく読める」点にある。米谷一志・編集長も「専門用語を使わず、知らない人でも読める」ことを編集方針としていることを明かす。

読み物として面白い

 簡単なことのように聞こえるかもしれないが、専門誌でこうしたスタンスを維持できているものは意外に少ない。

 例えば、カメラ雑誌を読むのには、カメラや写真についてのある程度の知識がいる。「絞り」や「シャッタースピード」といった用語がわからなければ、毎号を読み続けるのは難儀だ。週刊ダイヤモンドのような経済雑誌も、ある程度、企業や経済についての知識がないと、難解と感じる読者もいるだろう。

 ところが、芸術新潮は、芸術と銘打っておきながら、芸術の素養がなくとも楽しめるのである。

 同誌を開いてみると、そこに並ぶのは、絵の描き方、彫刻の掘り方といった技法や神学論争のような作品の解釈などではない。多くの特集では、作者の人間性や背景にある歴史、ドラマに迫っているのだ。