スマホの主要な機能の一つである「地図アプリ」。グーグルマップやアップルの地図アプリなど、GPS(位置情報)に合わせて地図データをネットからダウンロードして、移動中でも地図を次々と更新していく。いまでは当たり前に使われている機能だ。

 しかし、このような“クラウド型”の地図サービスが浸透したのは最近のことだ。1980年代に日本が世界に先駆けて実用化したカーナビゲーションや、パソコン用の地図アプリが使われるようになっても、容量が大きい地図データは、長年にわたって端末内に内蔵する方式が採られてきた。

 内蔵型の難点は、道路や施設が更新していても情報は古いままで更新されないこと。そのため、毎年「○○年版」という形で更新データが販売されていた。記録媒体がCD→DVD→ハードディスクと大容量になり、その分地図データに収録される情報量も増えていったが、車載型のカーナビの場合地図データを内蔵する方式は変わっていない。ただし、建物や道路の改変情報を通信で補充していくタイプが増えているようである。

 一方、携帯電話が普及し、ネットにつながるガラケー全盛の時代になると、地図データを通信でダウンロードする「モバイル地図アプリ」が登場した。その後ガラケーがスマホにとって代わり、モバイル通信の高速化が進むにつれ、「地図サービス=クラウド」が定着した。

いちいちダウンロードを待たなくても
パッと地図が出るアプリが作れる

地図アプリの表示イメージ(提供:インクリメントP)

 しかし、インターネット接続が前提になった地図は、「圏外」の場合当然使えない。また、たとえ通信が可能でも、地図をダウンロードする数秒~数十秒の時間が待てない作業が必要な場合もある。

 そのようなニーズに対応するため、地図サービス企業のインクリメントPでは、アンドロイドOS向け地図アプリ開発キットの販売を開始した。主に業務用の専用アプリの中で、通信しなくても表示される「オフライン地図」を提供できる。

 パイオニアのカーナビ用地図部門が分社独立した企業であるインクリメントPは、20年以上全国の地図データを収集してきた老舗。パソコンやスマホ向け地図サービスの「MapFan」で知られている。自社製の地図データを持つ企業は淘汰が進み、国内では同社のほかに2社しか存在しない。

 今回発売する開発キットについて、インクリメントPが想定している主な用途は、災害救助やボランティアの復旧作業、またトンネル、山間部など、電波が届きにくい場所や状況だという。また、通信可能な場所でも、オンライン地図を表示する時間が待てない状況、高速道路の安全点検や外回りの営業支援ツールなど、「決まりきった場所」の確認を素早く行いたい用途にも向く。

「アプリ内に用途に応じたオリジナルのアイコンや吹き出しを表示することも可能です。地図は現在日本語版と英語版がありますが、今後中国語・韓国語にも対応予定です。またOSはウィンドウズ、iOSへの対応も予定しています」(商品部第2商品部第4グループマネージャーの馬場純氏)

 この地図データの容量は全体で5GB程度と大きいが、スマホやタブレットの内蔵メモリは大容量になっているので内蔵可能だろう。また、オフラインとはいえ、地図データの更新は年12回も行われる(12月開始予定)ので、「鮮度」も問題なさそうだ。

 デジタルデータを仕事のツールとして使うとき、クラウドはすべての状況で万能とは限らない。「手元」とクラウドの賢い使い分けが求められる。

(取材・文/ダイヤモンド・オンライン編集部 指田昌夫)