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保田隆明 大学院発! 経済・金融ニュースの読み方

コーポレートファイナンスはどこへ向かうのか

保田隆明 [神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師]
【第38回】 2009年11月10日
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 「我々は誰のためにコーポレートファイナンスを学び、誰のために最適と思われるコーポレートファイナンスを実践するのでしょうか?」

 これは、今月1日にアカデミーヒルズにて共同講師を務めたコーポレートファイナンスのセミナーで最後にいただいた質問である。「うーん、それはいい質問だなあ」と内心唸ると同時に、「確かに我々は一体誰のために…?」と心の中で反芻してしまった。今回のコラムではこのご質問に対する答えを整理してみたい。

 セミナー当日、しばし考えたのち私が出した回答は「企業の競争力向上のため」であった。それは企業にかかわるすべての人のためということであるが、同時にやはり株主のため、という意味合いも含む。「企業は株主のものだ」という議決権、所有権の原則のもとでは、「株主のため」と言い切ってしまうことが正解なのかもしれない。しかし、株主利益だけをひたすら追い求めて経営破たんした投資銀行のようなケースを考えるに、「株主のため」とだけに限定するのはそれが独り歩きしてしまうリスクを考えると、やはり違うのだと思う。

誰のためのコーポレートファイナンス戦略か

 冒頭の質問を受けて、自分がなぜ膨大な時間と労力をかけて何冊も書籍を執筆し、そしてセミナーの講師として一生懸命コーポレートファイナンスの理論や戦略を誰かに伝えようとするのか、に頭を巡らせてみた。私自身のモチベーションは、どこかの企業の株主に喜んでもらおうというものではなかった。株主が幸せになるイメージを持っていたわけではなく、むしろ日本企業にとって有益だろうとの思いが根底にあった。どう有益かと言えば、適切なコーポレートファイナンス戦略を実行することで、企業の競争力が向上するという意味である。

 企業の経営戦略を考えるに、いかに効率的、かつ、ベストタイミングで資金調達を行うかを考えることは、商品の販売戦略、マーケティング戦略、研究開発戦略、あるいは人事戦略と同じように重要なことである。

 しかし、日本においては、営業やマーケティングと同等の重要さでファイナンス戦略が語られることはあまりなかったのが実際である。メインバンクが資金を無制限に提供してくれていた時代はそれでよかったが、そういう外部環境ではなくなったため、企業は個別で財務戦略を考える必要性に迫られた。

 また、自ら研究開発をし、マーケティング、販売戦略を考えて、いざ新商品を生み出すというプロセスに代わって、外部からそれらすべてを購入してくるというM&Aというものが価値を持つようになってきた。M&Aの実施においてはいくらで買うか、すなわち、企業価値の算出、そして、買収金額の手当て(調達)が重要である。

 そういう経緯ゆえ、コーポレートファイナンス戦略を、「株主のため」あるいは、「企業は株主のものだから」という発想のもとに実践してきたわけではない。もっとも、企業は株主のものである、と必要に応じて連呼してはきたが、それとコーポレートファイナンス戦略を誰のために実践するかはまた別の話である。車は車道を走るものである、と言うのと、車をどう走らせれば社会的に最適かを考えることは別なのと同じような感覚である。

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保田隆明 [神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師]

1974年生まれ。神戸大学大学院経営学研究科准教授、昭和女子大学非常勤講師。リーマン・ブラザーズ証券(東京/ニューヨーク)、UBS証券東京支店で投資銀行業務に携わる。その後、起業、投資ファンド運用等を経て、10年より小樽商科大学大学院准教授、14年より昭和女子大学准教授、2015年9月より現職。雑誌、テレビや講演で金融・経済をわかりやすく解説する。著書は「あわせて学ぶ会計&ファイナンス入門講座」「実況LIVE 企業ファイナンス入門講座」(ともにダイヤモンド社)ほか多数。早大院商学研究科博士後期課程満期退学。
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保田隆明 大学院発! 経済・金融ニュースの読み方

仕事と両立しながら大学院に通い始めた保田隆明が、大学院で学ぶからこそ見えてきた新しい視点で、世の中の「経済・金融ニュース」をわかりやすく解説する。

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