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2030年のビジネスモデル

「看板のない居酒屋」では、店員がみなイケメンに育つ

齊藤義明 [ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]
【第12回】 2013年11月14日
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宣伝しない、看板もない、場所もわかりにくい居酒屋

 普通、飲食店は立地産業と言われる。行きやすい所にあって目立つことが大事。しかし成熟した社会では逆もまた成り立つ。静岡県で七店舗の居酒屋を展開する「岡むら浪漫」グループ。七店全てが異なる個性を放ち、しかも宣伝せず、看板もなく、店がどこにあるのかすらわからない。「お客さんにいかに来てもらうかよりも、どんな気持ちで帰ってもらうかのほうが大事」という経営哲学を持つ。

「兼次郎」の外観

 岡むら浪漫グループの一つ、静岡県藤枝駅前にある「兼次郎(かねじろう)」。藤枝駅からスキップで50歩と案内されている。一体どこにその店が隠れているのか、探すのもまた楽しい。店にいく前から、既にこの店の思惑に巻き込まれている。結局、Googleマップを使ってもたどり着けなかった。一体どこなんですか、店に電話をかけ、教えてもらった。

プライスレス・メニュー

 店長が玄関前で、まるで何か別の作業でもしていたかのようにさりげなく待っていてくれた。店に案内され、まず目に飛び込んだのが適度に複雑でどこか迷宮的な空間構成。素敵な雰囲気である。店内にはお客さんとのコミュニケーションのきっかけがあちこちに仕組まれている。なぜそこにあるのか、なぜこんなふうにしたのか、訊いてみたくなるものが沢山ある。質問とか話題とかがさりげなくいっぱい埋め込まれた店だ。

 でももっと素敵なのはこの店のスタッフたちである。気配りが半端ない。「今度社長に取材したくて、その前にまずは店を体験しておきたくて来ました」と、カウンターで呑みながらちょっとだけ話していたら、数分後、携帯電話を渡された。「出張中の親方(社長)に繋がっています」

 これには参った。頼んだわけでもなく、そうしたいとも一言も言っていない。来訪の背景をちょっと話しただけなのに、相手のために何ができるかを考え行動する。岡むら浪漫では、言われてからやることを「作業」、言われる前にやることを「仕事」というのだそうだ。

 宣伝しない、看板もない、場所もわかりにくいということは、今日来てくれたお客さんにまた来たいと思ってもらわなければ「次はない」ということだ。目の前のお客さんがどうしたら喜んでくれるか、スタッフたちは全力で考え行動する。

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齊藤義明[ビジネスモデル研究者、経営コンサルタント]

ビジネスモデル研究者、経営コンサルティング会社勤務。政策・経営コンサルティングの現場でこれまで100本以上のプロジェクトに関わる。専門は、ビジョン、イノベーション、モチベーション、人材開発など。

facebookページ:https://www.facebook.com/yoshiaki.saito.1042

 


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未来のパターンを作り出す企業は、はじめは取るに足らないちっぽけな存在だ。それゆえに、産業の複雑な変化の過程で、その企業はときに死んでしまうかもしれない。しかし個別企業は死んでも、実はパターンは生き続け、10年後、20年後、新しい現象として世の中に広がる。2030年の日本につながる価値創造のパターンとは何か。現在さまざまな領域でその萌芽に取り組む最前線の挑戦者たちとのダイアローグ(対話)。

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