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山下一仁の「農業立国論」

国民を惑わす「農業村」の主張の誤り

山下一仁 [キヤノングローバル戦略研究所研究主幹/経済産業研究所上席研究員(非常勤)]
【第2回】 2013年11月27日
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都市的地域に住む多くの国民が、農業・農村から離れて久しい。しかも、離れた後に農業・農村に大きな変化が生じたために、農業・農村の実態に疎くなった。“農村にいる人の多くは農家”で、それらの“小農は貧農で、環境に優しい農業を行っている”という1960年代以前の古い時代の農業・農村のイメージに、いまも多くの人はとらわれている。

また、土地から離れた都市住民は農業生産を行う技術も資源も持たないので、心の底では食料危機の発生と食料供給に不安がある。農協、農水省、農林族議員から成る農業村の人たちは、このような状況をうまく利用して、高い関税や農業保護を維持するための様々な主張を行ってきた。それはあたかも原子力エネルギーにおいて、「原子力村」が形成されたように、「農業村」の主張として国民の間に浸透している。ここでは、そのような主張の一部を取り上げ、それが誤った「農業神話」であることを明らかにしたい。

主張1:先祖伝来の農地なので、
零細な農家が農地を貸したがらないため、規模拡大が進まない

 主業農家に、兼業農家が農地を貸し出さないことを、農林水産省などは、「先祖伝来の農地なので、それを貸したがらないからだ」と説明する。しかし、そもそも戦後まもなく実施された農地改革でもらった農地なので、先祖伝来とは言えないし、先祖の霊が、土地を貸す時は枕元に出てくるのに、所有権を手放す売却行為の時には妨害しないというのは、いかにもおかしな話だ。“先祖の霊”は都合のよいときに現れてくれる。

 農林水産省はなぜウソをつくのだろうか?兼業農家が農地を貸し出さないことには、二つの原因がある。

 第一に、ヨーロッパと異なり、日本では土地の利用規制(ゾーニング、農地と都市的地域の線引き)が甘いので、簡単に農地を宅地等に転用できる。転用価格(2005年)は、市街化調整区域内で10アール2315万円、農家の平均的な規模である1ヘクタール(1万平方メートル)で2億3000万円の利益である。これは農地を貸して得られる地代収入の2000年分に相当する。大都市周辺地域では、この何倍もの利益となる。土地バブルがはじけた今でも、農家には年間2兆円の転用利益が発生している。

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山下一仁 [キヤノングローバル戦略研究所研究主幹/経済産業研究所上席研究員(非常勤)]

東京大学法学部卒業。同博士(農学)。1977年農水省入省。同省ガット室長、農村振興局次長などを経て、2008年4月より経済産業研究所上席研究員。2010年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。主著に『日本の農業を破壊したのは誰か―農業立国に舵を切れ』(講談社)、『企業の知恵で農業革新に挑む!―農協・減反・農地法を解体して新ビジネス創造』(ダイヤモンド社)、 『農協の大罪』(宝島社新書)、『農業ビッグバンの経済学』(日本経済新聞出版社)、『環境と貿易』(日本評論社)など。


山下一仁の「農業立国論」

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉が大詰めを迎えている。TPP反対派の一大論拠は、TPPを認めれば、日本の農業が崩壊して、食料自給率の低下を招き、食の安全が脅かされるというものだ。しかし、今の農業や農村は都会人が抱くイメージとは全く異なっている。農政や農協がこうしたイメージを活用して自らの既得権益を守ってきた結果、日本の農業は衰退の道を歩んできた。農業問題で当代随一の論客であり、農業界でも“農業ビッグバン派”のリーダ―と言われる山下一仁キヤノングローバル戦略研究所研究主幹が、農業の発展を阻害してきたこれらの要因を明らかにし、そのくびきから解き放たれれば、農業立国は可能なことを明らかにする。

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