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山下一仁の「農業立国論」

【農政改革(下)】
今秋の米価暴落が試す
安倍政権の改革本気度

山下一仁 [キヤノングローバル戦略研究所研究主幹/経済産業研究所上席研究員(非常勤)]
【第9回】 2014年8月7日
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前回は規制改革会議の改革案をベースに農業分野の規制改革の真意を解説した。この改革案は、農協の意向を無視できない自民党によって、ほとんどと言って良いほど、骨抜きにされた。しかし、もうひと波乱起こるかもしれない。今年の秋、米価暴落が待ち受けているからである。今年産米の価格暴落は、農業改革を本来の姿に戻す千歳一隅のチャンスである。

農協は「協同組合の理念」を無視

 全中会長は、規制改革会議の提案に対して、「組織の理念や組合員の意思、経営・事業の実態と懸け離れた内容だ」と非難した。しかし、この主張自体が、農協の実態とは懸け離れた内容だ。

 農協は「協同組合の理念」を無視して、組織の利益を優先してきた。“利用者が所有し、管理し、利益を受ける”というのが協同組合原則だが、今では組合員の多数を占めるようになった准組合員(この実態については本連載の『農業・農村の伝説、迷信、謎の正体』を参照)は、利用者であるのに、制度上組合を管理することはできないし、農協は組合員農家に高い農業資材を押し付けるなど、組合員の利益を損なってきた。協同組合原則では、その利用者は組合員のはずなのに、“まちのみんなの”をキャッチコピーとするJAバンクはTV番組「サザエさん」のスポンサーとして、組合員以外の国民一般に、その利用を呼びかけている。

 大手町にある37階の超高層JAビルの最上階に鎮座されます全中会長がご存じないのは無理もないが、農家らしい「農家の心」は、とっくの昔に農協から離れている。私の『農協解体』という本を読んだ見知らぬ農家から、よくぞ言ってくれたという感謝と激励の手紙が、続々と寄せられる。規制改革会議が提案した全農の株式会社化は、米や畜産物の販売、飼料の製造、飼料穀物や肥料原料などの輸入、国内での物流など事業の主要部門について、子会社化を進めてきた農協の「経営・事業の実態」そのものではないか。

 全中による農協の経営指導や監査が役に立っているのであれば、どうして農協職員による横領などの不祥事が絶えないのか?全中による監査は農協を全中の意向に従わせる効果を持っていないのか?

 なぜ全農を通じて買うと、肥料などの資材価格が高くなるのか?豊作が見込まれた2007年に農家への仮渡金を1万2000円から一気に7000円に引き下げ、コメを引き取らないという意思表示をした全農は、農家のために行動しているのか?株式会社化すればできなくなると農協が主張する共同販売・購入についても、全農が株式会社化されるだけで、依然として協同組合である単協(地域の単位農協)には、独占禁止法は適用されないので、可能である。しかも、生活資材の共同購入を行っているAコープは株式会社ではないのか?

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山下一仁 [キヤノングローバル戦略研究所研究主幹/経済産業研究所上席研究員(非常勤)]

東京大学法学部卒業。同博士(農学)。1977年農水省入省。同省ガット室長、農村振興局次長などを経て、2008年4月より経済産業研究所上席研究員。2010年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。主著に『日本の農業を破壊したのは誰か―農業立国に舵を切れ』(講談社)、『企業の知恵で農業革新に挑む!―農協・減反・農地法を解体して新ビジネス創造』(ダイヤモンド社)、 『農協の大罪』(宝島社新書)、『農業ビッグバンの経済学』(日本経済新聞出版社)、『環境と貿易』(日本評論社)など。


山下一仁の「農業立国論」

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉が大詰めを迎えている。TPP反対派の一大論拠は、TPPを認めれば、日本の農業が崩壊して、食料自給率の低下を招き、食の安全が脅かされるというものだ。しかし、今の農業や農村は都会人が抱くイメージとは全く異なっている。農政や農協がこうしたイメージを活用して自らの既得権益を守ってきた結果、日本の農業は衰退の道を歩んできた。農業問題で当代随一の論客であり、農業界でも“農業ビッグバン派”のリーダ―と言われる山下一仁キヤノングローバル戦略研究所研究主幹が、農業の発展を阻害してきたこれらの要因を明らかにし、そのくびきから解き放たれれば、農業立国は可能なことを明らかにする。

「山下一仁の「農業立国論」」

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