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山下一仁の「農業立国論」

農業立国への道(下)
実力政治家もなしえなかった農協改革
戦後政治最大の圧力団体変革への提言

山下一仁 [キヤノングローバル戦略研究所研究主幹/経済産業研究所上席研究員(非常勤)]
【第7回】 2014年2月5日
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戦後農政は、米価を求心力として結合した、自民党農林族、農協、農林水産省から成る“農政トライアングル”によって推進されてきたといってよい。戦後政治における最大の圧力団体であるJA農協は流通業、サービス業など、あらゆる事業を行う権能を持つ巨大な事業体でありながら独禁法の適用除外となっている。その独占的地位を活用して、今や農家の利益よりも組織の利益が優先し、結果として日本農業の高コスト体質をつくり上げている。戦後農政を変革するには、農協法を廃止ないしは改正して、農協の政治力を排除し、その独占性を解体する必要がある。

農政改革を阻む者

 いよいよ戦後政治における最大の圧力団体である、JA農協の改革を論じたい。これには、実家が農家だった菅官房長官が熱心だと伝えられている。しかし、1955年には総理を目指していた有力政治家、河野一郎農林大臣が、農協から金融事業を分離しようとしたが果たせなかった。近年の総理では最もリーダーシップを発揮した小泉総理の下でも、規制改革会議で同じような分離論が検討されたが、報告や答申が出される前に自民党農林族が官邸に押し掛けて、これを潰してしまった。農協改革は難題である。

 EUは加盟国が27ヵ国にものぼり、合意形成は相当困難であると思われるのにもかかわらず、なぜEUでは農政改革が進み、日本では進まないのだろうか。それはEUになくて日本にあるものがあるからである。JA農協である。

 農地改革で保守化した農村は農協により組織化された。農地改革は小作人を解放して1ヘクタール規模の自作農を多数作った。農協の基本原理とされている1人1票制は、等しい規模の農家を維持するために機能した。農協が動員する票は自民党を支え、自民党は農林水産省の予算や組織・定員の維持や増加に力を貸し、農協は米価の引き上げや農協施設への補助金などでメリットを受けるという、“農政トライアングル”が成立した。

 農協にとっては、米価が高いとコメの販売手数料収入が高くなるうえ、農家に肥料、農薬や農業機械を高く売れる。つまり、農協の収益は高いコメの価格維持とリンクしているのである。このように価格に固執する圧力団体はEUにもアメリカにも存在しない。戦後農政は、米価を求心力として結合した、自民党農林族、農協、農林水産省から成る“農政トライアングル”によって推進されてきたといってよい。

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山下一仁 [キヤノングローバル戦略研究所研究主幹/経済産業研究所上席研究員(非常勤)]

東京大学法学部卒業。同博士(農学)。1977年農水省入省。同省ガット室長、農村振興局次長などを経て、2008年4月より経済産業研究所上席研究員。2010年4月よりキヤノングローバル戦略研究所研究主幹。主著に『日本の農業を破壊したのは誰か―農業立国に舵を切れ』(講談社)、『企業の知恵で農業革新に挑む!―農協・減反・農地法を解体して新ビジネス創造』(ダイヤモンド社)、 『農協の大罪』(宝島社新書)、『農業ビッグバンの経済学』(日本経済新聞出版社)、『環境と貿易』(日本評論社)など。


山下一仁の「農業立国論」

TPP(環太平洋戦略的経済連携協定)交渉が大詰めを迎えている。TPP反対派の一大論拠は、TPPを認めれば、日本の農業が崩壊して、食料自給率の低下を招き、食の安全が脅かされるというものだ。しかし、今の農業や農村は都会人が抱くイメージとは全く異なっている。農政や農協がこうしたイメージを活用して自らの既得権益を守ってきた結果、日本の農業は衰退の道を歩んできた。農業問題で当代随一の論客であり、農業界でも“農業ビッグバン派”のリーダ―と言われる山下一仁キヤノングローバル戦略研究所研究主幹が、農業の発展を阻害してきたこれらの要因を明らかにし、そのくびきから解き放たれれば、農業立国は可能なことを明らかにする。

「山下一仁の「農業立国論」」

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