情報整理や知的生産はどうしても続かない。そう感じている人も多いだろう。誰もがノート1冊で簡単に情報整理ができるとして、シリーズ累計50万部のベストセラーとなった『情報は1冊のノートにまとめなさい』。この本の[完全版]刊行に合わせ、「ノート1冊方式」のメリットをダイジェストで紹介。

 2008年に刊行された『情報は1冊のノートにまとめなさい』は、おかげさまでシリーズ累計50万部の支持をいただきました。しかし、刊行から5年がたち、その間、ノートやペン、糊などの文房具だけでなく、スマートフォンなどの情報端末も大幅に進歩しています。

 このような事情から、このたび、全面的に手を加えた上で、「完全版」と銘打った書籍を刊行することになりました。そこで、この連載では、旧版の刊行から現在まで、僕自身が新たに身につけたテクニックやノート術の最新ノウハウを厳選してご紹介しようと思います。

なぜ「知的生産術」は続かないのか

 旧版でのノートを使う主な目的は、入れた情報を自在に参照するということ。つまり「情報整理」でした。今回は、そこからさらに一歩踏み込んで「ノートを使った知的生産」まで解説しています。

 では、そもそも「知的生産」とは一体何でしょう? この言葉を広めた民俗学者・梅棹忠夫氏は、次のように説明しています。

「ここで知的生産とよんでいるのは、人間の知的活動が、なにかあたらしい情報の生産にむけられているような場合である、とかんがえていいであろう。この場合、情報というのは、なんでもいい。知恵、思想、かんがえ、報道、叙述、そのほか、十分ひろく解釈しておいていい。つまり、かんたんにいえば、知的生産というのは、頭をはたらかせて、なにかあたらしいことがら──情報──を、ひとにわかるかたちで提出することなのだ」(『知的生産の技術』梅棹忠夫/岩波新書)

 知的生産とは、「新しい情報」をつくること。つまり、僕がここに書いている文章も知的生産であり、ビジネスでの報告書やプレゼンテーションも、もちろん知的生産です。またウケを狙って友達に披露する小話も広い意味での知的生産と言えるでしょう。

「知的生産」の重要性が叫ばれ始めたのは、いわゆる“ものづくり”に陰りが出てきた1970年代のことです。すでに40年も前の話になります。

 このころから現在まで、ビジネスパーソンは知的生産と格闘し続けてきた、と言っても過言ではないでしょう。画期的な新商品、ユニークなサービス、世間に衝撃を与えるコピー、斬新なコンセプト、それまでの常識を覆すような本……。こういったものをどうつくり出せばいいのか?

 これまで、たくさんの学者やビジネスパーソンがその方法を披露してきました。古くは情報カードやシステム手帳から始まり、ワープロや電子手帳、PDAを経て、最近ではパソコンやスマートフォン、タブレット端末など、ITを使った知的生産の技術が注目を集めています。

 新しい手法が提案されるたび、人々はすぐに学び使いこなそうと努力してきました。「自分の知的生産に革命をもたらしてくれる」、そんな期待で胸をいっぱいにしながら。

 ところが、ほとんどの場合、その期待は裏切られます。せっかく集めた情報を使いこなせない。手間がかかって続けられない、と。では、なぜ知的生産術は破綻するのでしょうか。

「高度すぎるから」です。

 多くの分類・整理を基本にしたシステムは複雑すぎます。古くは、図書館のようにメモや資料を何十、何百という項目に分類して棚やキャビネットに整理するやり方が提唱されていました。最近の、デジタルツールを使った知的生産術でも、端末やアプリケーションを細かく設定して、同期設定やタグ付けの設定をしたりと、非常にややこしいものになっています。

 こういったやり方は一部の人にとっては良くても、ほとんどの人にとっては難しすぎる。また、はじめのうちはできそうでも、情報がたまるほど気軽に扱えないようになり、ますます複雑なものになっていくのは目に見えています。

「分類・整理」自体は有意義なことだし、学者やジャーナリストにとっては必要な作業でしょう。しかし、普通の人にはおすすめできません。とてもじゃないけれど、続けられないからです。結果的に、これまでの知的生産術は、「絵に描いた餅」になってしまっていました。

 理論としては「分類・整理で情報が活用できる」のかもしれませんが、多くの人にとっては「分類・整理のせいで情報が活用できない」ということになっていたのです。