3年以内の閉鎖が決まったルネサスエレクトロニクスの鶴岡工場に、存続の可能性が浮上した。工場をルネサスから切り離して独立させる計画で、出資を検討している救世主はソニーである。

 11月22日、東京・大手町。ドラマ「半沢直樹」の劇中後半、不正の舞台となった東京中央銀行京橋支店のロケ地でもある日本ビルに、数人の男たちが吸い込まれていった。目指した先はビルに入居している経営再建中の半導体大手、ルネサスエレクトロニクス本社である。

 この日、ルネサス本社は振り替え休日で、社内に人影はほとんどなかった。人目を忍ぶように訪れた男たちを出迎えた数人のルネサスの技術者らは、ねぎらうようにこう声をかけた。「『長崎』からは遠かったでしょう」。

ソニーはルネサスエレクトロニクスの鶴岡工場で、イメージセンサー(下)の製造を狙っている
Photo by Hiroyuki Oya/kyodonews/amanaimages

 長崎。半導体業界に関わる者にとって、この言葉が意味するものは一つしかない。世界最高の電子の“目”を作る、長崎県諫早市にあるソニーのイメージセンサー工場、通称「長崎テック」のことである。極秘にルネサスを訪れた男たちは、長崎テックから来た技術者の集団だった。与えられた特命は、閉鎖が決まったルネサスの鶴岡工場(山形県鶴岡市)を、ソニーのイメージセンサーの製造に利用できるかどうか、見極めることだったとみられる。

 3年以内の閉鎖が決まっている鶴岡工場。その存続に向けた歯車が、本格的に動きだした。

技術力の高さを評価
ソニーが狙う次世代センサー製造

 ソニーが関心を示している鶴岡工場は、ルネサスのシステムLSIの主力製造拠点で、旧NECエレクトロニクス系に当たる。国内電機メーカーの家電向けの半導体など幅広い製品を手がけ、任天堂が主要顧客となっている。ゲーム機「Wii」「Wii U」専用の半導体製造を手がけるなど付き合いは長く、ピーク時には鶴岡工場の製造量の半分以上を任天堂向けが占めていたほどだ。

 鶴岡工場が任天堂をはじめとする多くの顧客に評価されてきた理由の一つは、技術力の高さにある。とりわけ、歩留まり向上や安定品質の要である、製造プロセスを最適化するノウハウは、業界でも一目置かれていた。その集大成の一つが、Wii Uにも採用された製造困難な「混載DRAM」と呼ばれる半導体の量産で、世界でも限られた工場でしか実現していない。