補聴器の総合企業として業界をリードするマキチエ。開発・製造から販売、修理までを一貫して行っている。難聴者のQOLを改善するために補聴器普及率100%を目指すと宣言する平松知義社長に、難聴に対する世間の認識と弊害の深刻さ、同社がつくる未来について聞いた。

“病院で補聴器”が、「当たり前」の世界をつくりたいマキチエ
平松知義 代表取締役社長
Tomoyoshi Hiramatsu
2018年2月、マキチエ代表取締役社長に就任。1951年に補聴器の販売を開始した創業者の「補聴器は病院や医師を介して販売されるべきである」という信念を継承し、1700を超える医療機関のネットワークを構築。社内のDX推進、新製品の開発にも注力している。

 聴覚の衰えは40歳代から始まり、65~74歳では3人に1人、75歳以上では約半数が難聴に悩んでいるという(日本耳鼻咽喉科頭頸部外科学会)。加齢により視力が衰えるように、加齢による難聴は避けることが難しい病気だが、対策はある。耳鼻咽喉科の専門医に相談して補聴器を適切に使うことだ。

 補聴器のリーディングカンパニーであるマキチエは、1945年の創業当初から病院やクリニックとの連携を推進し、現在では認定補聴器専門店を全国38カ所に構え、認定補聴器技能者を大学病院や総合病院、クリニックへ派遣している。平松知義社長が患者・専門医・販売店の「三位一体」を重視する理由はこうだ。

「難聴は加齢だけが原因とは限りません。メニエール病や聴神経腫瘍のような大きな病気のせいかもしれない。そこで専門医に診察してもらうことが大切なのです。それに補聴器は薬機法(医薬品医療機器等法)に基づく医療機器です。眼鏡とは違い、買ってすぐに使えるというわけではなく、医師による医学的見地からの指導と認定補聴器技能者による適切な調整が不可欠です。患者さまも一定期間の脳のリハビリテーションを行わなければなりません」

 難聴とは耳の機能が低下し、脳に伝わる音の刺激(電気信号)が弱くなっている状態だ。弱い刺激に慣れていた脳が補聴器を着けることで本来の音量に戻る。そのため、「うるさい」と感じてしまうのだ。そこで通常は3カ月程度のリハビリをして本来の音量を受け入れる脳に戻さなければならない。