とかく世の中は複雑です。

 第二次世界大戦勃発前夜には、ドイツが仮想敵国だったソ連と不可侵条約を結ぶに至って、時の首相・平沼騏一郎は『欧州情勢は複雑怪奇なり』と叫んで内閣総辞職したような出来事もありました。

 そんな戦争の時代はさて置くとしても、グローバル化が進んだ現代では、些細な事でも、風が吹けば桶屋が儲かる式に、大きな影響を持ち得ます。地球の反対側の出来事だって瞬時に伝わり、為替レートが動き、株価が乱高下します。かつては貧しい途上国だった国も今や新興国と呼ばれ、その動向にも目配りする必要があります。

 だから、真面目なビジネスパーソンは最新の国際情勢を勉強して、緻密に出来事をフォローしたりします。世の中は簡単に白黒がつくように単純にできてないのですから。真実も神も悪魔も細部にこそ宿ります。

 しかしです。

 複雑なものを複雑に理解しようとして深みにはまってしまっては展望が拓けません。時には、大雑把に、と言って悪ければ、巨視的な視点、大局観をもって見ることで全体が見渡せて、出口が見えたりするものです。葉を見ることも木を見ることも重要ですが、森を見ることが大切です。

【「ヨーヨー・マ プレイズ・モリコーネ」】 <br />過剰なまでに美しい旋律と比類なき芳香を放つ

 と、いうわけで、今週の音盤は、現代チェロの最高峰ヨーヨー・マと映画音楽の巨匠エンニオ・モリコーネが共演した「ヨーヨー・マ プレイズ・モリコーネ」(写真)です。この音盤には、贅沢なほどの滋養が満ちています。そして、複雑怪奇な現状に戸惑いを感じる時に聴けば、物事の本質はシンプルなものに宿るのだ、ということが実感できます。