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ニッポン 食の遺餐探訪

広島産、厚岸産に負けない味を宮城でも
三陸の若き「カキ養殖家」の逆襲

樋口直哉 [小説家・料理人]
【第14回】 2014年1月8日
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 「三陸のカキ養殖場を廻りませんか?」

 2013年の11月。ヤフー株式会社、復興支援室の長谷川さんに誘われて、三陸のカキ養殖場をいくつか見学した。僕らは2012年にも牡鹿半島を廻っていて、カキ養殖場を集中的に巡るのは2回目になる。

 ヤフーは石巻に事務所を置き、そこにスタッフを常駐させている。クリーンで明るいオフィスで働いているのは、フランクで気持ちのいい人たちだ。彼らは『復興デパートメント』というショッピングサイトを中心にして、現地でビジネスを展開している。

 企業や生産者にインターネットを通じて、商品を売ってもらうことで、地域活性、ひいては地元の雇用創出に繋げようとする狙いがあって、地元のNPO法人と組んで、インターネットで商品を売るサポートをするのが彼らの事業である。

 長谷川さんは軽い兄ちゃんという風貌だが、三陸の漁業復興に貢献しようと、色々と画策したり、漁師達と一緒に困ったりしている熱い志を持った人物で、地元の人にも詳しいので、案内してもらったわけだ。

カキは海、養殖家によって
それぞれ味が違う食べ物だった

奥松島水産の剥きたてのカキ。獲れたてをその場で食べるのは格別だ

 まわっていてまず気がついたのは当たり前かもしれないが、それぞれの産地事に、カキの味が違う、ということだ。

 『カキの味には育った海の差が出る』というのは定説だが、どうやら本当のようだ。カキ養殖家が育てているカキの品種は同じだが、それぞれ味が違うのである。個体差もあるが、塩味、旨味、脂分、苦味の割合がすべて異なっている。スーパーで『宮城産』と書かれているカキを購入しても、この味の違いはわからない。そうして売られているカキは漁協などが持っている共同施設を通して出荷された形なので、養殖家の違いは表に出てこないからだ。

 共同施設は1963年にはじまる沿岸漁業構造改善事業によって整備され、漁業の合理化を進めてきた象徴だ。このやり方に沿ってこれまでは『どこそこ産のカキが旨い』というブランドを構築してきたわけである。共同出荷には養殖家の収入と出荷量の安定というメリットがあるが、消費者にとっては、どこで獲れたカキなのかわからない、というデメリットもある。

 今、宮城県では共同という形だけではなく、個別の養殖家がそれぞれ個別にカキを販売する試みがあちこちでなされている。生産者が販売までをてがけるいわゆる産業の六次化である。

 僕らはそのお陰でカキの浜ごとによる味の違いを感じることができるようになった。

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樋口直哉 [小説家・料理人]

1981年生まれ。服部栄養専門学校卒。料理人として活動する傍ら、2005年、『さよならアメリカ』で群像新人文学賞を受賞し、小説家としてデビュー。ほかの作品に『月とアルマジロ』(講談社)、『大人ドロップ』(小学館)、『星空の下のひなた。』(光文社)、『ヒマワリのキス』(徳間書店)、『アクアノートとクラゲの涙』(メディアファクトリー)がある。

 


ニッポン 食の遺餐探訪

和食を世界遺産に、という動きが農林水産省を中心にはじまっている。日本料理はここ十年余りの世界的な流行になり、外国の料理人の多くも関心を持っていて、誰もがそれを理解しようとしている。しかし、当の日本人の多くは日本料理を理解できていないのではないか。そこでこの連載では、日本の食を支えている道具や食材をつくっている生産者、職人を訪れて、私たち日本人が知らない日本の“食の遺餐”を紹介していく。 

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