新日本製鐵の新中期経営計画の中身が話題になっている。三村明夫前社長(現会長)時代に掲げた「粗鋼生産能力4000万トン+α」(昨年実績は約3700万トン)の目標を事実上取り下げ、規模拡大戦略を見直すのではないかという観測が流れているからだ。

 仮に「4000万トン+α」を撤回するとすれば、グローバルプレーヤーとしての中核的地位が揺らぎかねない。

 東アジアでは製鉄所が次々と立ち上がっている。韓国・現代自動車グループの現代製鉄は今年1月、400万トンの高炉を稼働した。2015年までには1200万トンにまで拡大する計画を立てている。同じ韓国のポスコは18年までに生産能力を国内外で6000万トンにまで引き上げる。かたや中国では政府主導の再編によって、5000万トン級の超大手製鉄所が複数誕生する見込みだ。

 つまり、国内最大手、世界2位の新日鉄といえども、中国、韓国に抜かれるのは時間の問題であり、今ここで「4000万トン+α」を取り下げれば、自ら敗北を認めたに等しい。

 08年9月のリーマンショックによる世界経済混乱により、JFEホールディングスと住友金属工業を除く鉄鋼大手3社(新日鉄、神戸製鋼所、日新製鋼)は、そもそも今年度からの中計策定を延期していた。

 現在、新日鉄は10~11年度の新中計、神戸製鋼所と日新製鋼は3ヵ年計画を年度内に策定する方向で動いている。

「4000万トン+α」を実現するためには、中国・インドに代表される新興国市場への進出が喫緊の課題だ。内需回復の見込みは薄い。海外企業への一部出資のみならず、高炉一貫製鉄所建設や海外企業買収も検討しなければ、アジアの盟主の座を死守できない。「鉄は国家なり」の威信がかかっている。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 松本裕樹)

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