鳩山由紀夫新政権は、CO2などの日本の温暖化ガスを「1990年比25%削減」と掲げた。

 海外からは礼賛の声が尽きないが、国内の産業界では不満と戸惑いの声が噴出している。

 不満と戸惑いの背景は2つ。第1に、削減目標がマニフェストに掲げてあったにせよ、国民的合意もないまま、瞬く間に国際公約のように広がってしまったことだ。

 第2は、最大の不満かつ不安な点だが、「日本だけが損をする」可能性だ。特に議長国ということで、深く考えずに不利な条件をのんでしまった現行の京都議定書の二の舞いを避けたいという思いが強い。

 現行ルールでは、日本の産業界は重い環境投資負担に加えて、排出権購入に数千億円の負担を強いられている。一方で削減義務を負わない中国や米国などが旧式の設備で温暖化ガスを排出しまくっているため、競争条件が歪むばかりか、地球規模では温暖化ガスがまったく削減されていない無意味な状態が継続している。

 加えて、欧州は旧東欧地域が大量に温暖化ガスを排出していた90年を基準にする狡猾さに加え、主導権を握った排出権取引で日本からカネを巻き上げようという姿勢が見え隠れする。日本の産業界は世界最高の省エネを推進してきたのに、辛酸をなめ尽くしている。

 鳩山首相は演説で「主要国の参加が前提」と釘を刺したが、「日本の目標が一人歩きするだけ。海外の賛辞は退路を断たせるためだろう」(鉄鋼業界幹部)といった懸念が強く、実際にそのとおりになりそうな気配が濃厚である。産業界のなかには早速、「海外に生産拠点をそっくり移さねばならなくなる」という悲鳴も上がっているほどだ。

 ただ、水面下では「環境技術の拡販のチャンスにしたい」(重工会社)といった声が出始めているのも事実。実際、ディーゼル車の排ガス規制導入で、需要減に喘いでいたトラック会社が息を吹き返したようなことが、あらゆる業界で起きる可能性もある。「環境技術で先行する日本企業は格段に優位」(鉄鋼会社)という自負もある。

 もっとも、現実には25%削減という数字をクリアするには、技術の大革新が欠かせない。振り返れば2度にわたるオイルショックという窮地を、日本の産業界は創意工夫の推進力に変えてきた。今度ばかりはお手上げになるのか、それとももう一段の高みを目指すのか、目先の政策以上に日本経済の浮沈を握るカギになりそうだ。

(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木 豪)

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