先日、A医師が開業しているクリニックに、B生命保険の調査員が面談にやってきて、こんなことを尋ねられた。

「先生のクリニックで診察を受けていた患者のCさんから、給付金の請求があったのですが、告知義務違反が疑われるんです。初診日はいつでしたか?」

 Cさんは、数年前にA医師のクリニックで診療を受けていた糖尿病の患者だが、調査員の話によれば、病歴を隠してB生命の医療保険に加入していたようなのだ。

健康状態が悪い人は
民間保険には加入できない

 民間の保険商品は「収支相等の法則」で成り立っており、契約者から集めた保険料総額と、彼らが病気やケガ、死亡をしたときに支払う給付金や保険金の総額がバランスをとるように設計されている。

 高すぎる保険料を設定すると、監督官庁である金融庁の許可は下りないが、少なすぎれば保険会社の経営が成り立たなくなる。そのため、必要な給付を行っても、保険会社が損しないように保険料は決められている。

 医療保険の場合は、年齢別の死亡率を調査した「生命表」、患者の病気やケガの状況を調査した「患者調査」など、厚生労働省が発表している各種調査をもとに、各社が自前で蓄積したデータを加えて、保険料計算の専門家であるアクチュアリー(保険数理人)が各社の保険料を決めていく。

 つまり、加入者が一定の確率で病気やケガをすることを見込んで保険料を決めているので、入院や手術をする人が想定の範囲を超えると、その前提が崩れてしまい、集めた保険料だけでは入院給付金や手術給付金の支払いに支障をきたす恐れがでてきてしまう。

 そこで、保険会社は、事前に保険契約の対象となる人の健康状態、職業などを報告してもらったり、医師の診査を受けてもらったりして、健康状態の悪い人に対しては加入を断ることもある。