ダイヤモンド社のビジネス情報サイト
悶える職場~踏みにじられた人々の崩壊と再生 吉田典史

集団リンチ状態でも笑って踊る27歳営業マンの葛藤
社員の平常心を奪い去る「無罪放免職場」のからくり

吉田典史 [ジャーナリスト]
【第31回】 2014年2月25日
著者・コラム紹介バックナンバー
1
nextpage

 今回は、上司をはじめ多くの部員が参加する、職場の集団いじめを取り上げたい。そうした被害を受けるある男性(27歳・営業マン)から話を聞くと、殴るようなことまではされていないようだ。

 しかし「言葉の暴力」に始まり、公衆の面前で踊らされる「罰ゲーム」、さらに「なぜ攻撃」と言われる詰問が毎日繰り広げられるという。これは行き過ぎた「パワハラ」「いじめ」の類であり、受ける側にとっては「集団リンチ状況」とも言える。それでも男性は笑い、踊り、平気なふりをして出社する。いつかは、この「リンチ」が終わると思い込んでいる。

 筆者には、会社には世代や性別を越えて、働き手の正常な感覚を破壊する何かがあるように思えてならない。そのような視点から男性の話を聞き、職場に根付く課題を筆者なりに炙り出したい。読者諸氏にも、一緒に考えてほしい。


卓球のラリーに負けたら踊れ!
集団リンチのような「罰ゲーム」

 宮城県仙台市のホテル。大きなロビーの隅に卓球台がある。その周りに、浴衣を着た数人の男性がいる。女性も1人いる。

 このメンバーは、都内に本社を構える社員150人ほどの(①)住宅販売専門の不動産会社の営業部(部員60人)の社員だ。この会社は「東北の被災地への支援」と称した社員旅行で仙台を訪れた。明日からは石巻市、女川町などに行く。

 卓球台のそばでは、営業第2グループ(社員5人)のリーダーの男性(32歳)がはしゃぐ。宴会場で酒を飲んだ後だけに、普段は見せない表情だ。中学・高校の6年間、卓球部に在籍していた。慣れた手つきでラケットを握る。

 相手は5人の中で最年少の営業マン。27歳の宇佐美博(仮名)が顔をひきつらせ、リーダーとラリーを続ける。

 宇佐美は卓球をしたことがない。打ち返すことができずに、ラリーが途切れると、「罰ゲーム」が待っている。その場で30秒ほど、踊らないといけない。

1
nextpage
関連記事
スペシャル・インフォメーションPR
クチコミ・コメント

DOL PREMIUM

PR

経営戦略最新記事» トップページを見る

最新ビジネスニュース

Reuters

注目のトピックスPR

話題の記事

吉田典史 [ジャーナリスト]

1967年、岐阜県大垣市生まれ。2006 年からフリー。主に人事・労務分野で取材・執筆・編集を続ける。著書に『あの日、負け組社員になった・・・』『震災死 生き証人たちの真実の告白』(共にダイヤモンド社)や、『封印された震災死』(世界文化社)など。ウェブサイトでは、ダイヤモンド社や日経BP社、プレジデント社、小学館などで執筆。


悶える職場~踏みにじられた人々の崩壊と再生 吉田典史

 企業で働くビジネスマンが喘いでいる。職場では競争原理が浸透し、リストラなどの「排除の論理」は一段と強くなる。そのプロセスでは、退職強要やいじめ、パワハラなどが横行する。最近のマスメディアの報道は、これら労働の現場を俯瞰で捉える傾向がある。

 たとえば、「解雇規制の緩和」がその一例と言える。事実関係で言えば、社員数が100以下の中小企業では、戦前から一貫して解雇やその前段階と言える退職強要などが乱発されているにもかかわらず、こうした課題がよく吟味されないまま、「今の日本には解雇規制の緩和が必要ではないか」という論調が一面で出ている。また、社員に低賃金での重労働を強いる「ブラック企業」の問題も、あたかも特定の企業で起きている問題であるかのように、型にはめられた批判がなされる。だが、バブル崩壊以降の不況や経営環境の激変の中で、そうした土壌は世の中のほとんどの企業に根付いていると言ってもいい。

 これまでのようにメディアが俯瞰でとらえる限り、労働現場の実態は見えない。会社は状況いかんでは事実上、社員を殺してしまうことさえある。また、そのことにほぼ全ての社員が頬かむりをし、見て見ぬふりをするのが現実だ。劣悪な労働現場には、社員を苦しめる「狂気」が存在するのだ。この連載では、理不尽な職場で心や肉体を破壊され、踏みにじられた人々の横顔を浮き彫りにし、彼らが再生していくプロセスにも言及する。転機を迎えた日本の職場が抱える問題点や、あるべき姿とは何か。読者諸氏には、一緒に考えてほしい。

「悶える職場~踏みにじられた人々の崩壊と再生 吉田典史」

⇒バックナンバー一覧