変化の激しい先の見えない時代を生き抜いていける、「一生モノの自信」をわが子につけさせたい。そう願う親御さんは多いはず。
前回から始まった連載では、わが子に「一生モノの自信」をつけさせる秘訣を、開成学園校長・柳沢幸雄先生にうかがいます。
「デキる子」が挫折しやすい理由
――厳しい受験をくぐり抜けて開成学園に入学してくる子どもたちは、最初から自信が備わっているのでは?
柳沢 確かにみんな小学校でトップだった子ばかりです。ただし、それは入学と同時にご破算になり、誰もがいっせいに再スタートを切ることになります。ずっとトップクラスを走っていた子たちも、1位から300位までに振り分けられるわけですから、なかにはこれまでの自信が揺らぐ子も出てきます。その時に“成績だけが人間の価値だ”と考えてしまうと、挫折してしまうケースもある。我々としては、そこでの意識の持っていき方が非常に重要だと考えています。
――具体的には、どのような取り組みをしていらっしゃるのですか?
柳沢 勉強以外にも打ち込めるような“自分の居場所”を作らせることを重視しています。そのための仕掛けとして、入学当初から様々なイベントを組んでいるんです。
まず、入学式が終わるとすぐに対校ボートレースが始まります。校歌と応援歌を2週間で覚えてボートレースで応援するのですが、ここでは高校3年生全体で新入生全体の面倒を見ます。その3週間後に行われる運動会では、高3の生徒と新入生がペアになり、上級生が個別に世話を焼く。交換日記をしていろんな相談に乗るなど、懇切丁寧に教えます。
そうして部活動の勧誘が始まるまでに、教員含め、上級生らが課外活動の楽しさを懸命に伝えていきます。そこでうまくハマってくれると、自分の居場所が見つかって、学校にくるのが楽しくなります。
――学年を超えた交流が盛んなのですね。
柳沢 年齢を超えて交わることができるのは、中高一貫校のメリットですね。同年代だけでなく、6年の差を超えた相手と交流することで、いざ自分が上の立場になったときにどう立ち振る舞うか、リーダーとしてどう取りまとめていいかを理解していく。その後、生きていく上で重要な“対人性”を学ぶことができるわけです。
東京大学名誉教授。開成中学校・高等学校校長。シックハウス症候群、化学物質過敏症に関する研究の世界的第一人者として知られる。1947年、疎開先・千葉県市川市の母の実家で出生。1971年、東京大学工学部化学工学科を卒業後、日本ユニバック株式会社にシステムエンジニアとして勤務し、激務のかたわら、週15時間英語の勉強に打ち込む。1974年、水俣病患者を写したユージン・スミスの写真に衝撃を受け、化学工学を勉強すべく、東京大学大学院工学系研究科の修士課程・博士課程に進学。この頃、弟と一緒に学習塾の経営を始める。東京大学工学部化学科の助手を経て、1984年にハーバード大学公衆衛生大学院環境健康学科の研究員の職を得て、家族を連れ渡米。その後、ハーバード大学公衆衛生大学院環境健康学科の助教授、准教授、併任教授として空気汚染の健康影響に関する教育と研究に従事、学生による採点をもとに選出される「ベストティーチャー」に数回選ばれる。1999年、東京大学大学院新領域創成科学研究科環境システム学専攻教授に就任。2011年より現職。