2013年12月に成立した改正生活保護法は、2014年7月1日から施行される。現在は、省令案など運用の実際にかかわる部分の検討が行われている段階だ。

今回は予定を変更し、現在、公開されパブリックコメントが募集されている省令案について検討する。生活保護法改正をめぐる国会での質疑で再三強調された「運用は変えない」は、省令案によってどの程度担保されているのだろうか?

改正生活保護法をめぐる
2014年1月以後の動き

 2013年12月に成立した改正生活保護法は、現在、2014年7月1日からの施行(一部は2014年4月1日より施行)に向けて、厚労省・自治体・福祉事務所などで多様な準備が進められている段階である。また並行して、2013年10月より再開された社会保障審議会・生活保護基準部会では、生活保護制度に設けられている8つの扶助のほとんどすべてについて、見直しと検討が行われている。

 2014年1月以後の政府・自治体等の動きと、関連が大きいと考えられるメディア報道等を、時系列で整理してみる。

●2014年1月

・NHK「クローズアップ現代」で「あしたが見えない 深刻化する“若年女性”の貧困」が放映される(1月27日)。

・毎日新聞首都圏版において、新宿区の生活保護申請権侵害が報道される(1月29日。「生活保護:申請断念させる 新宿区「違法水際作戦」NPOが批判/東京」)

●2014年2月

・2013年8月1日に執行された生活保護基準見直し(引き下げ)に対し、佐賀県の生活保護当事者14名が佐賀県・佐賀市を佐賀地裁に提訴。不服審査請求が棄却されたため。提訴は全国初(2月25日。報道は毎日新聞など)。全国で1万人を超える生活保護当事者が審査請求を行い、同様に棄却されて(注)いる。今後、全国で提訴が相次ぐ見通し。

・厚労省、「生活保護法施行規則の一部を改正する省令案」(以下、「省令案」)を公示。パブリックコメントを募集。パブリックコメントの受付は3月28日まで(2月27日。パブリックコメントの投稿と省令案の閲覧はこちらから行える)

2014年2月28日に開設された、さいたま市「生活保護ホットライン」に関するさいたま市のチラシ(稲葉剛氏提供。下部には実施主体と電話番号が掲載されているためカット)。生活保護当事者を不正受給予備軍と見ることを奨励するかのような内容となっており、批判が相次いだため、さいたま市は配布を中止した
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・さいたま市、「生活保護ホットライン」を開設(2月28日。報道:3月1日、朝日新聞など)。広報チラシやホームページに記載された内容が、生活保護当事者に対する監視の奨励であり、生活保護当事者に対する差別を助長する内容を含んでいるとして、公開直後より激しい批判を受けた。2014年3月6日現在、さいたま市は広報チラシの配布を中止し、ホームページの文言を既に修正している。

(注)自治体によっては、不服審査請求に対する棄却は全国と同等に行うものの、受給者の生活の苦しさへの理解や「自治体としても生活保護基準のあるべき姿は引き続き要検討と考える」という意思を何らかの形で示していることもある。

●2014年3月

・厚労省、社会・援護局関係主管課長会議を開催(3月3日)。「必要な方には保護を」「申請権侵害は許されない」と強調。

・厚労省、2012年度の生活保護不正受給が過去最多の4万件・190億円に達したことを公表(3月3日、読売新聞など)

・第16回生活保護基準部会開催(3月4日)。主に就労支援・住宅扶助に関する議論。継続審議。

・厚労省、生活保護受給者数が過去最多の216万7220人に達したことを公表(3月5日、時事通信など)

・厚労省の省令案が、生活保護法改正案に対する国会審議や附帯決議案を全く踏まえていないことに関する報道(3月5日・東京新聞「生活保護の申請「まず書面」に逆戻り?」「弁護士ら修正要求声明「生活保護 省令案は姑息」」

 厚労省レベルでも、自治体レベルでも、報道でも、「生活保護制度の縮小やむなし」という動きと「生活保護制度や生活保護基準は守るべき」という動きが、目まぐるしく入り乱れている。もちろん、217万人に達しようとする生活保護当事者も「当事者たち」という一枚岩の存在ではない。当然のことではあるが、意見の違いや温度差がある。非常に少数ではあるものの、生活保護基準引き下げに賛同する当事者も存在する。また、声をあげる当事者を嫌悪する当事者もいる。

 複雑な動きの中で、生活保護制度がどこに向かおうとしているのかを見定めるのは困難だ。けれども、見定めるべく、目を凝らしてみよう。