大量生産・大量廃棄の線形経済モデルから循環経済モデルへの変革と新市場創出を図る「サーキュラーエコノミー」という考え方が注目されている。その一環として、ユーザーを起点として国内におけるEV電池のサーキュラーエコノミー実現を目指す「EV電池スマートユース協議会」が、2024年10月に設立された。同協議会の設立に中心的な役割を担った日本総合研究所のキーパーソンに、克服すべき課題や今後の展望などを聞いた。

希少資源の海外流出が続くEV電池の国内循環実現へ。「EV電池スマートユース協議会」が発足日本総合研究所
創発戦略センター
Social DX統括ディレクター
シニアスペシャリスト
木通秀樹 

製品・資源の利用価値最大化を目指す

 社会における環境意識の高まりとともに、「サーキュラーエコノミー」という言葉を耳にする機会が増えた。ただ、やや不正確または曖昧な理解のまま社会に広がっている面もある。日本総合研究所(以下、日本総研)創発戦略センター Social DX統括ディレクター シニアスペシャリストの木通秀樹氏は「しばしば、3R(Reduce、Reuse、Recycle)と混同されることがあります」と語る。3Rとサーキュラーエコノミーは異なる概念だ(図表1)。木通氏はこう説明する。

「3Rは、大量生産・大量廃棄を前提とした現状の経済モデルの中で、資源の循環量を増やしていこうという取り組みです。これに対してサーキュラーエコノミーは、大量生産・大量廃棄の経済システムから脱却して、原則として廃棄物を出さないように、いかに製品や資源の利用価値を最大化するかという視点から生まれた概念です」

希少資源の海外流出が続くEV電池の国内循環実現へ。「EV電池スマートユース協議会」が発足図表1 3Rとサーキュラーエコノミーの違い
3Rは大量廃棄を前提とする取り組みであり、廃棄物の価値の最大化を目指す。その際、主に“静脈”ともいえる供給側の活動が重視された。サーキュラーエコノミーは製品・資源の利用価値の最大化を目指しており、静脈産業の形成に加えて、ユーザーの積極的な関与が重要になる
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 廃棄物をできるだけ減らすのがリデュース、廃棄物に再び価値を付与するためのアプローチがリユースでありリサイクルである。一方、サーキュラーエコノミーの世界ではモノの価値を維持したまま、持続的に利用する。

「従来は無価値とされていたモノであっても、そこに潜在している価値を顕在化させ、利用価値を引き出すことができれば、サーキュラーエコノミーに移行して、新しい産業や市場が立ち上がります」

 シェアリングはその代表例といえるだろう。一般車両の稼働率は平均5%程度といわれる。残りの95%に達する無価値な状態を活用し、1台の自家用車を10人でシェアすれば、車の稼働率は高まり利用価値も向上する。シェアリングの仲介や自動車保険の新商品など、新たなサービスも生まれる。

「サーキュラーエコノミーの下で、利用価値を高める新サービスが生まれるとともに、プラスアルファの価値を生むリメークビジネスも拡大します」と木通氏は語る。製造業を例に取れば、これまでは資源を使って新たなモノを製造し、販売するというのがメインのビジネスであった。サーキュラーエコノミーに移行すると、そうしたビジネスの一方で、資源やモノの有効利用を目指す新たな業態が活発化することになる。モノの利用価値を最大化させる中で新たなサービス・技術が生まれ、産業トータルで生み出す価値も大きくなるとみられる。