「中国の夢」の貫徹・実行へ
全人代の4つのポイント

よしだ・ようすけ
1976年生まれ。99年3月福井県立大学経済学部経済学科卒業。2001年3月まで同大学大学院経済経営学研究科国際経済経営専攻。主に中国経済を研究。同年9月中国人民大学に留学。一年の語学研修を経て、同校国際関係学院課程(科学社会主義と国際共産主義運動専攻)に進学。06年7月卒業。卒業後は日本語教師を経て、10年より日中関係研究所研究員として日中関係、中国政治の研究に従事。

「すべての人はみな理想や追求すべき目標を持っており、みな自らの夢を持っている。今、みなは中国の夢について語っているが、私は中華民族の偉大な復興を実現することこそが、中華民族が近代以来抱いてきた夢である、と考えている」(2012年11月29日、「復興の道」博覧会見学の際の習近平講話)

 習近平氏は2012年11月の第18回党大会で総書記に就任して以来、公式の場で「中国の夢」について語り、国内の団結を呼びかけてきた。ただ、「中国の夢」とはどのようなものか、その具体像については明らかになっていなかった。

 それが昨年11月に開かれた中国共産党第18期三中全会(中央委員会全体会議)において今後の中国の改革の方向付けがなされ、今年3月5日から開かれた全人代(全国人民代表大会)では、内容の一端が示された。

 今回の全人代のポイントは次の四つだ。

 第一に、親民路線を印象付けるため、一般市民にもわかるような形で改革の方向を示したことである。

 習指導部発足以来、指導者は「虎と蝿を一緒にたたく」や「釘うち」の精神など俗っぽい言葉を使って国民に語りかけた。後で述べるが、李克強首相の行った報告は従来の報告とは違い、一般の中国人がよく使っている言葉を使って書いていた。

 一般市民にとって政治は遠いものであり、中国人たちも「こんなものは中国人でもわかりませんよ」と関心を示さない。これでは政府の意図が正しく人民に伝わらないばかりか、中国共産党の持つ伝統である「大衆路線」にも反する。そのため、政府は人民がわかる形での改革の方向付けを目指したのである。

 第二に、拡大政策をとらず、引き続き安定成長路線をとっていくことをはっきりと示したことである。今年の経済成長率の目標値は昨年と同じ7.5%に据え置かれた。これまでは10%、9%と高い成長率を目標としたが、胡錦濤時代になってからは「科学発展観」が打ち出され、従来の盲目的に量だけを拡大させる政策から、質の高い発展を目指す路線に転換された。

 第18回党大会では科学発展観が指導思想となり、習・李指導部も基本的にこれを継承しており、安定成長路線をとっている。

 第三に、政府自身が身を切る改革を行うことを示したことである。日本でも民主党政権時代にその手のことをよく聞いたが、現在中国でも同じことが言われている。習近平氏が総書記に就任して以来、政府機関に対し「三公消費」の圧縮を求め、無駄の排除を呼びかけた。会議も従来のような金をかけたものではなく、無駄を省いた質素なものになった。

 今年の全人代でも「節約励行」が呼びかけられ、財政報告でも節約によって浮いた資金を、民生など早急に支援を必要とする分野に充てるといった文言があった。