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悲しき「食料・農業・農村基本計画」
審議最終局面でも、目標が定まらず

週刊ダイヤモンド編集部
2010年3月5日
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 「ここに書かれているのは方法論。すべてごもっともなことですが、それでは、一体何を目指すのか。それが明確でない。本来は、最初にそういうビジョンが示されて、そこに向かって、どうしていくのかが示されていくものではないでしょうか」

 3月3日に行われた食料・農業・農村政策審議会企画部会。委員の1人、合瀬宏毅氏(NHK解説主幹)は、「新たな食料・農業・農村基本計画」の策定に向けた主な論点について、痛烈に批判した。

 他にも、荒蒔康一郎氏(キリンホールディングス相談役)から、「目指すべき姿を描くことが必要」などの意見が述べられた。最後に、部会長を務める鈴木宣弘氏(東京大学大学院教授)からも、「10年後のビジョンをはっきり示さなくてはいけない」という発言があり、課題が示された。

 ここで策定しようとしている食料・農業・農村基本計画は、「国民の食料をどのように確保していくか」「そのために国内の農業をどのような形にしていくか」などを、10年という長期で考え、政策を決めていくための骨格となる。いわば、最も重要な国策の指針だ。5年ごとに見直され、その審議が今、佳境に入っている。

 予定では、残り3週間ほどで答申案がまとめられ、それを受けて閣議決定されることになっている。これまで、2年5ヵ月間、20回の審議(民主党に政権が交代してからは5ヵ月間8回の審議)を重ねてきている。

 しかるに、最後の最後になってもまだ、「目指すべき姿」について、審議会の合意形成には至っていないばかりか、十分な議論にすらなっていない。審議会のメンバーは、農業生産者、主婦、学者、メーカー経営者など幅広い分野にわたり、意見が大きく異なり、激論になってもおかしくないが、そうはなっていない。

 原因は、時間が少ないにもかかわらず(特に政権交代後)、審議の対象が広がり過ぎていることと、審議事項の順番の設定にある。

 たとえば、農業の目指すべき姿を議論する上で最も重要な論点である、農業経営体の育成・確保(誰が日本の農業の中心になるのか。彼らをどう育て、確保するのか)は今頃になって、冒頭の議論に入る前に1時間強、意見を述べ合っただけだ。

 各委員からの意見を受けて、政務官の佐々木隆博氏が、問題解決の難しさをまとめた。要旨は、農業も、産業としての競争力や効率性を追求すれば、大規模化して少数精鋭で担うほういい一方で、農村地域のコミュニティを維持するためには、既存の家族経営などを維持していく必要がある、というものだ。

 確かにその通りだ。しかし、だからこそ、それに対する政策上の解決策を議論することが、審議会に求められているはずだ。たとえば、「農業政策は、産業政策として競争力向上の目的に集中すべきで、コミュニティ維持のための政策は社会政策として別途行うべき」とか、「農村ではそれらは不可分で、両者の問題を同時に解決するような農業政策を行うべき」といった議論が必要なのではないだろうか。

 問題の背景には、政治的思惑があるのだろう。夏の参議院選挙を控え、政府民主党としては、農村票を失う恐れがある明確な農業政策を打ち出すリスクは取れないのではないか。

 しかし、それは国民全般に対しては背信行為だ。このままでは、目指すべき姿が曖昧なままに終わり、毎年の政策は、目標が見えない中で作られていくことになる。

 各委員は政治リスクを負う立場にないのだから、審議会には問題の所在と難しさを浮き彫りにする率直な議論が望まれる。曖昧な目標設定の計画への答申を予定期間内で打ち出されるより、数ヵ月遅れでも、相応の議論があった上での基本計画への答申が求められる。

 審議会企画部会の議事録は、部会開催の数日後には農林水産省のウェブサイトで公開されている。

(『週刊ダイヤモンド』副編集長 大坪亮)

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