経営のためのIT
【第17回】 2014年5月16日
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内山悟志 [ITR代表取締役/プリンシパル・アナリスト]

IT投資の効果測定は“積年の課題”
――経営者はどうやって投資の妥当性を見出すべきか

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 企業におけるITコスト抑制へのプレッシャーは依然として強い。ITが経営やビジネスに及ぼす影響は増大し、IT投資の戦略性もさらに高まっているが、その一方で多くの経営者が「ITの経営効果が見えない」という悩みを抱えている。今回はIT投資効果の測定方法について考える。

長年にわたって研究されてきた
IT投資効果の測定

 ITの経営上の価値や投資効果を定量的に評価・測定したいという願望は長年のテーマであり、世界中で多数試みられてきたが、未だ定番と呼ばれる評価方法論は存在していない。米国を中心に1980年代から、企業の業績と情報化投資の相関関係を導いたり、主要企業における状況を測定・調査する試みが数多くなされた。

 米Xerox社と米国防総省のCIOを歴任したポール・ストラスマン氏は、情報化投資の判断指標を追求する自身の長年の研究をまとめて、1990年に『The Business Value of Computer』を著わし、ROM (Return on Management:マネジメント利益率)が情報化投資の指標になることを主張した。

 コンピュータが、データを管理し、業務の効率化を支援する道具として利用されていた当時においては、同氏のROMの考え方は、情報化投資を映す鏡として一定の尺度を提供したと考えられる。

 しかし、1990年代後半になると情報システムは、管理やオペレーションの効率化を支援する道具以上のものとなった。つまり、企業の競走上の付加価値を生み出し、より積極的に事業活動に関与する存在になった。このような情報システムに対する投資を、業務コスト削減や効率向上にのみ着目した指標で判断することは適切でなくなったのである。

 さらに、ITの投資効果を金額で表現しようとする試みも数多くなされてきたが、それらも成功していない。

 最もよく耳にする議論の例として、「電子メールの価値はいくらか」「ERPの導入に費やした10億円は、何年で回収できるのか」というものがある。当然のことながら、これらの導入によって削減できた紙代や通信費、作業時間の短縮によって削減できた人件費の換算を積上げることは可能であろう。しかし、これらが波及的にもたらした業務のスピードや品質、事業リスクの低減、事業機会の拡大といった、より大きな価値について金額で表すことは容易ではない。

ITインフラ投資の効果は
簡単には数値化できない

 IT投資の効果を測定したり、事前に目標を設定することが困難な理由がいくつかある。その最も大きな原因のひとつは、IT投資案件には直接的な効果を特定しやすいものと、そうでないものがあるなど、性質の異なるいくつかのタイプが存在する点である。

 例えば、事務作業の省力化を支援するシステムの導入では、それによって削減される工数を試算することが可能である。また、直接的ではないにしても、営業の活動支援を狙ったシステム化により、営業スタッフが顧客訪問に割ける時間が増加した、あるいは、受注件数が増えた、といった効果を何らかの指標を用いて評価することができるだろう。

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内山悟志 [ITR代表取締役/プリンシパル・アナリスト]

うちやま・さとし/大手外資系企業の情報システム部門などを経て、1989年からデータクエスト・ジャパンでIT分野のシニア・アナリストととして国内外の主要ベンダーの戦略策定に参画。1994年に情報技術研究所(現アイ・ティ・アール)を設立し、代表取締役に就任。現在は大手ユーザー企業のIT戦略立案・実行のアドバイスおよびコンサルティングを提供する。


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日々進化するIT技術をどうやって経営にいかしていくか。この課題を、独立系ITアナリストが事例を交えて再検証する。クラウド、セキュリティ、仮想化、ビッグデータ、デジタルマーケティング、グローバル業務基盤…。毎回テーマを決め、技術視点でなく経営者の視点で解き明かす。

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