プーチン大統領のリーダーシップ、資源バブルの追い風で完全復活を果たしたロシアは、これからいったどこへ向かうのか。大前研一・ビジネス・ブレークスルー大学院大学学長が、「ロシアが目指す道」を鋭く斬る。(聞き手:『週刊ダイヤモンド』編集部 佐藤寛久)

大前研一氏
写真:宇佐見利明

 27歳で初めてロシアを訪れてから38年。ここ2年でロシアの景色は急速に変わった。街にはモノが溢れ、ウオツカを飲んでいた国民がビールを飲み、女性が化粧をするようになった。

 資源高でロシア経済が復活したと見る向きは多い。だが、資源高でも経済成長が芳しくない国は少なくない。隣国のウクライナが典型的な例だ。鉄鉱石、石炭といった資源に加え、農業に適した世界有数の肥沃な黒土を持ちながら、経済復活のメドは立っていないのだ。

 ロシア経済が復活した最大の理由は、プーチンの改革にある。なかでも最大の成果を上げたのは2002年から始まった税制改革だ。

 以前は、年収がわずか5000ドル(約50万円)を超えると、所得税が最高税率の30%に達していた。給与所得があるほとんどの人が最高税率を適用されるため、脱税が横行して、地下経済が膨大にふくれ上がっていた。

 そこに、プーチンは逆転の発想を取り入れた。一律13%のフラットタックスを実施して、減税というアメを与えたのだ。一方、マフィアに対しては「不正は許さない」という姿勢を意識的に取り、納税を逃れる者は徹底的に罰し、死刑も厭わない鬼気迫る姿勢で臨んだ。

 そこで、国民はリスクを冒すよりも税金を払ったほうがマシとなった。プーチンの怖さが、政策の徹底において効果的に表れている事例だ。その結果、税率が下がったにもかかわらず、税収は逆に25%も増加した。地下経済も大幅に縮小して、資源高の恩恵が広く庶民にも行き渡るようになったのだ。