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田岡俊次の戦略目からウロコ

複雑な利害対立にアメリカも打つ手なし
イラクは3つに分裂しクルド独立か

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第31回】 2014年6月26日
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イラク情勢が急変している。イスラム・スンニ派の過激集団「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS)を主体とする武装勢力が、首都バグダッドに迫った。スンニ派とシーア派、加えてクルド族の存在と、宗派対立、民族対立が複雑に絡む同国に対して、アメリカもある宗派に肩入れすれば、別の宗派諸国との友好関係を失うので打つ手がない。イラクはシーア派支配地域、スンニ派支配地域、クルド族支配地域の3つに分裂する可能性が高い。

ISIS急進撃の背景

 米軍が2011年12月18日にイラク撤退を完了して以来2年半、オバマ米大統領は6月19日イラクへの軍事顧問300人の派遣を発表した。イスラム・スンニ派の過激集団「イラク・シリアのイスラム国」(ISIS)を主体とする武装勢力は6月10日、イラク北部の同国第2の都市モスル(人口180万人)を制圧。さらに南下して11日に大規模な石油精製所があるバイジとティクリート(同25万人)を占領。12日にはバグダッドの北約50kmのバクバ(同47万人)に迫った。バグダッドの西約50kmのファルージャ(同32万人)は今年1月からISISの支配下にあり、首都バグダッド(同590万人)は北と西の2正面からの攻撃を受ける形勢だ。


 ISISはアルカイダ系だが、その指導者アイマン・ザワヒリ(オサマ・ビンラディンの後継者)の指示に従ってはいないようだ。シリアの内戦では反政府軍の主力となり、戦闘経験を積んでいる。人員は約1万2000人と推定され、イラクで活動するのは5000人程度とも言われる。一方イラク陸軍は19万3000人、警察が34万6000人、その他にも「施設防護隊」「国境警備隊」「石油警察隊」が計18万5000人もいて、軍と治安部隊の総計は約80万人に達する。モスルにも1個師団を含む約3万人が駐屯していたようだが、ISISが蜂起するとすぐに総崩れとなり、指揮官先頭で逃走した。

 イラク北部はスンニ派住民が圧倒的に多い地域で、北東部のイラン、トルコとの国境地帯はクルド人(約500万人、スンニ派が多数)地域だ。宗派的にはイラク人(人口3258万人)の約60%が南部に多いシーア派、約35%がスンニ派、その他(キリスト教など)が約5%と推定されている。イラクのヌーリ・カメル・マリキ首相(65)はシーア派で、2005年12月の連邦議会選挙でシーア派の「統一イスラム同盟」が勝利した後、06年5月20日に首相となった。当初は宗派、民族の融和をはかったが、米国の占領下で圧迫されたスンニ派のテロ活動が続発して宗派対立が激化、2010年に第2次マリキ政権が成立した後は、スンニ派を政府中枢から排除する姿勢が露骨となった。またテロ防止・捜査の中で、治安部隊がスンニ派住民の人権を侵害することも多く、反感が高まっていた。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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