先週のこのコラムでは中国の民族系自動車メーカー・長城汽車を取り上げた。同社の幹部の言葉を借りて、民族系自動車メーカーが野良犬のように厳しい生存環境の中で逞しく成長してきたことを紹介し、今や「『野犬』が鋭敏な猟犬に変わった」とその変貌ぶりを日本の読者の皆さんに最新情報としてお届けした。
今週ももうすこし犬のことを話題にしたい。しかし、今度は例えに出てくる「犬」ではなく、生身の犬の話だ。
犬の姿煮が店頭に並ぶ
6月21日に近づくと、中国のとある都市はいつものように中国のメディアを賑わせる。広西チワン族自治区の玉林市だ。同自治区の南寧、桂林などの地方都市を含む中国の地方都市を相当歩き回った私でも、これだけ話題になっている玉林市は実は、まだ訪問したことがない。ネットで調べると、人口が590万人近くの地級市(中国の地方行政単位の一つ)で、経済規模が南寧、柳州、桂林の後を追っている、という。
なぜ6月21日に近づくと、同市が話題になるのか。その日が旧暦では夏至なのだ。約10年前から、同市は夏至になると、「夏至ライチ犬肉祭」という祭を大々的に開催するようになった。市内に行くと、油揚げされた犬の姿煮が店頭に並ぶ光景が見られる。
1年の内で、最も昼が長いと言われる夏至だが、その前後に合わせて何か特定のものを食べる風習は中国にも、日本にも残っている。愛知県の三河・尾張地方では、無花果(イチジク)田楽を、関西の一部地域では、タコを食べる風習があるそうだ。中国も同様だ。暑さで体が弱まるのを見越して、滋養のあるものを食べて元気になろうという発想からの風習だと理解していいだろう。
玉林では、ライチと犬肉を食べることを文化として対外的に宣伝しようと仕掛けた。祭の開催を通して、地元をアピールし、経済の活性化を図ると同時に、企業誘致などの目的も達成できる、と考えている。これは多くの地方政府がよく使う方法だ。その意味では、玉林市の考えは別に間違っていない。
ライチは楊貴妃の好物として知られ、嶺南から都の長安まで早馬で運ばせたという有名なエピソードが伝えられる。唐の詩人杜牧が書いた「過華清宮」という詩はまさにそのエピソードを詩の題材にしている。