【MBOと守破離に基づく組織改革】人材不足の業界で「一期一会」を実現。丁寧で合理的な事業を追求する【J建築検査センター 福岡支店】
2023年に福岡市天神に開設された福岡支店のメンバーと丹野智幸社長(後列一番右)。オフィスは駅近で、ワークとライフの両面を楽しめる好立地にある

J建築検査センター(JAIC)は、2006年に設立された国土交通大臣指定の指定確認検査機関。建築物が法律に適合しているかを審査し、工事中や完成後に検査を行う民間機関で、東京・大阪・福岡を拠点に全国で業務を展開している。

近年、建築業界は大きな転換点を迎えている。25年4月の建築基準法改正により、業務環境が大きく変化した。改正の主な内容は、構造設計の範囲拡大と省エネ基準適合義務化である。従来は簡略化されていた4号建築物(小規模な木造住宅など)についても、基礎伏図や軸組図、接合部詳細図など構造図書の提出が義務化され、審査範囲が大幅に拡大した。また、全ての新築建築物で省エネ基準への適合が求められ、意匠・設備・構造・省エネの整合性確認など、設計者の負担が急増している。

丹野智幸社長は、「以前は共同住宅の確認業務は3週間ほどで終わっていましたが、現在では3〜4カ月かかるケースもあります。合理性を追求しながら、確認・検査の品質を維持・向上していかねばなりません」と現状を語る。構造や省エネ設計に関する専門人材が不足する中、修正の手戻りが増加し、納期を超過する事例も生じている。

【MBOと守破離に基づく組織改革】人材不足の業界で「一期一会」を実現。丁寧で合理的な事業を追求する【J建築検査センター 大阪支店】
大阪支店のメンバー。2025年7月に引っ越しをしたオフィスは、淀屋橋駅直結の高層ビルに入居。急増する審査・検査依頼に迅速に対応し、関西エリアで高い信頼を築いている

「一期一会」と「丁寧さ」

こうした業務の複雑化と人材不足という難題に対応するため、JAICは組織基盤の強化を進めている。その根幹にあるのが「丁寧さ」という理念だ。丹野社長は「顧客との出会いは『一期一会』。丁寧な確認・検査の積み重ねこそが品質と生産性の両立を生みます」と話す。こうした姿勢を徹底する社員の対応によって、手戻りを防ぎ、効率を高める好循環が生まれている。

JAICが目指すのは、この「一期一会」と「丁寧さ」を組織全体の行動原理として実現することである。

人事評価制度の透明化

施策の第一の柱は、MBO(目標管理制度)の導入である。ピーター・ドラッカーが提唱したこの手法を、JAICでは現場レベルまで落とし込み、プロジェクト管理ツールによって目標と仕事を連動させている。進捗確認や報告業務の負担が軽減され、業務の透明性が高まり、不要な手戻りを防止。そのため、社員は本来の業務に集中できるようになり、組織全体の生産性が向上した。

施策のもう一つの柱が、26年4月に本格導入される新人事制度である。試験導入は25年10月から始まり、すでに現場で効果が出始めている。

新制度の中核は「透明化」。社員が自ら目標を設定し、公平な評価と結び付けることで、成長の道筋を明確にする仕組みを整えた。MBOや行動特性評価を活用し、自己評価と上司の評価を組み合わせて成長過程を可視化。さらに経歴やスキル、評価履歴をデータ化して人材配置や育成に活用するタレント・マネジメント・システムを導入した。

「新制度とタレント・マネジメント・システムを活用することで、課題を客観的に把握し、納得感のある運営が可能になります」と丹野社長は語る。成果を共有するためにプロジェクト管理ツールとも連携させ、各プロジェクトの進捗や成果をチーム全体で見える化している。社員一人一人の努力が組織全体の成果として共有され、モチベーションの向上にもつながっている。

「守破離」に基づく人材育成

人材育成の面では、茶道や武道における修業段階を示す「守破離」の考え方を職位や役職に当てはめている。

教育支援やメンター制度を併用し、それぞれの段階で成長を支援している。合理的な仕組みと公正な評価制度は、「努力が正しく評価される会社」というブランド形成にもつながっている。

この一連のプロセスにより社員の目標・行動・成果が一体化し、報告のための作業を減らして価値ある業務に集中できる環境を実現している。

社員が主役の組織を目指す

さらに丹野社長が目指すのは、社員が主体的に運営に関わり、生産性の向上とその成果を自らに還元できる「セルフマネジメント型組織」である。これは近年注目される「ティール組織(※)」であり、階層的管理を緩和し、フラットな体制を通じて社員の自律的な参画を促す。その結果、「上下関係というより、役割を果たす者同士のやりとりに近い関係」が生まれている。

最終目標は、生産性向上の成果を社員に還元し、平均年収を“大台”に乗せること。「欧州のように長期休暇を取りつつ、高い生産性を発揮する働き方に近づけたい」と丹野社長は理想像を描く。仕事と生活を切り離すのではなく、双方を豊かにする働き方を提唱し、「ワーク・ライフ・バランスというより、ワークとライフの両方を楽しんでほしい」と願いを込める。「ワークは別名職業人生ともいいますからね」。

新制度と文化を基盤にしたJAICの挑戦は、「透明化」と「丁寧さ」を両輪に、社内改革を超えて「楽しみながら」建築業界全体の信頼性と生産性を高め、日本経済の持続的成長に寄与する取り組みへと発展しつつある。

※ティール組織:従業員が主体的に意思決定しながら動く組織モデルの一つ

●問い合わせ先
株式会社J建築検査センター(JAIC)
〒150-0002 東京都渋谷区渋谷1-13-9 渋谷たくぎんビル5階
TEL:03-5464-7778
https://www.jaic-co.com/