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野中郁次郎のリーダーシップ論 ― 史上最大の決断

実践知リーダーとしてのチャーチル

野中郁次郎 [一橋大学名誉教授]
【第5回】 2014年6月27日
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私が『史上最大の決断』を書いた目的の1つは、国を統率する政治家のリーダーシップのあり方を描くことにあった。特に、戦時下という危機の時代にどのようにして国家を率いていくのかに着目した。そのための評価基準が、アリストテレスの唱えた「フロネシス」の能力である。これは賢慮とも実践知とも訳される言葉だ。今回は、このフロネシスの能力を備えた「実践知リーダー」の1人として、イギリス首相チャーチルを取り上げる。

フロネシスがもたらす最善の決断

 われわれ一般人の毎日ですら、無数の決断で成り立っている。それが、戦時の政治家や軍人だったらどれほどの決断をすることになるだろう。

 戦場で得られる情報は非常に限定されている。しかも、刻々と変わる。したがって、政治家や軍人は、時には錯綜した状況下でもたらされる種々の情報を勘案しながら、その時その時で素早く決断を下していかなければならない。 

ウィンストン・チャーチル(中央)
Photo:The National Archives

 こうした状況下で、最善の決断を下せるのはどのような能力を持つ人物なのか。その答えを私は、アリストテレスが提唱した「フロネシス」の概念を援用することによって説明している。日本語では、賢慮、実践理性、実践的知恵などと訳されるが、それを私は「実践知」と呼んでいる。

 フロネシス(実践知)は、共通善(Common Good)の価値基準をもって、個別のその都度の文脈のただ中で、最善の判断ができる実践的な知性のことである。適時かつ絶妙なバランスを持った「判断」と「行動」をする力である。優れた決断の根底には優れた判断がある。

史上最大の決断』においては、決断も判断もジャッジメントとしているが、それは意思決定(デシジョン)と区別するためだ。決断や判断は、既にある選択肢から単に選ぶ(つまり、意思決定)のではなく、全人的に関与(コミット)して、選択肢を自ら創り出すことであり、選択した後の行動を伴う。

 フロネシスを備えた「実践知リーダー」は、どのような能力によって成り立っているのか。それを表現したのがこの六角形の図である。

 これらの能力を抽出する際に、研究対象としたリーダーの1人が、祖国イギリスを率いてナチス・ドイツと5年間にわたり戦い抜いたチャーチルであった。バトル・オブ・ブリテンでのチャーチルのリーダーシップについては、合わせて『戦略の本質』を参照されたい。

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野中郁次郎 [一橋大学名誉教授]

1935年東京生まれ。早稲田大学特命教授。58年早稲田大学政治経済学部卒業後、富士電機勤務を経て、カルフォルニア大学バークレー校経営大学院博士課程修了(Ph.D)。南山大学、防衛大学校、一橋大学、北陸先端科学技術大学院大学、一橋大学大学院国際企業戦略研究科で教鞭を執る。紫綬褒章、瑞宝中綬章受章。知識創造理論の提唱者であり、ナレッジ・マネジメントの世界的権威として、米経済紙による「最も影響力のあるビジネス思想家トップ20」でアジアから唯一選出された。さらに2013年11月には最も影響力のある経営思想家50人を選ぶThinkers50のLifetime Achievement Award(生涯業績賞、功労賞)を受賞。近年は企業経営にとどまらず、地域コミュニティから国家までさまざまな組織レベルでのリーダーシップや経営のあり方にも研究の場を広げている。主な著作に、『失敗の本質』(ダイヤモンド社)、『アメリカ海兵隊』(中央公論新社)、『知識創造企業』(東洋経済新報社)など。

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野中郁次郎のリーダーシップ論 ― 史上最大の決断

『失敗の本質』から30年。経営学の世界的権威・野中郁次郎が、リーダーシップ研究の集大成の対象に選んだのは、「凡人たる非凡人」にして第2次大戦の活路を拓いた連合軍最高指揮官アイゼンハワー。「史上最大の作戦」で発揮された意思決定(Judgement)の本質を説く。

「野中郁次郎のリーダーシップ論 ― 史上最大の決断」

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