アメリカ軍の成功と失敗から
現代戦への示唆を得る
野中郁次郎博士らによる『失敗の本質』(1984年)は、第二次世界大戦における日本軍の軍略上の失敗を詳細に研究し、そこから近代組織への示唆を導き出した名著です。最近、その入門版(?)が出て人気を博しています。
戦争とは、この人間社会における最大規模の悲劇であり「競争」です。そこから膨大な学びがあることに、間違いはありません。
ただ、『失敗の本質』の舞台は約70年前。インターネットどころか、ジェット機すら稀な時代です。これに『アダプト思考』(2012年、ティム・ハーフォード)を組み合わせて、現代戦において本当に役立つ示唆はなんなのかを、考えてみましょう。
まず、この数十年の日米両軍の成功・失敗とその理由の流れはこうなります。
① 第二次世界大戦 後期:日本軍 大失敗(9つの本質的理由=Aから)。
アメリカ軍 成功(左記の裏返し)
② ベトナム戦争:アメリカ軍 大失敗(*1)(ほぼAと同じ理由から)
③ 湾岸戦争:アメリカ軍 大成功(*2)(圧倒的情報力と航空戦力で)
④ イラク戦争 統治前期:アメリカ軍 大失敗(ほぼAと同じ理由から)
⑤ イラク戦争 統治後期:アメリカ軍 成功(“ペトレイアス戦略”によって)
*1 アメリカはベトナム戦争に1964~72年の9年間で約5000億ドル(エール大学 ノードハウス教授試算による。現在価値では230兆円)を費やした。
*2 アメリカは湾岸戦争に1990~91年で761億ドル(現在価値で9.5兆円)を費やした。ベトナム戦争時の24分の1。