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利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのか――目的工学[入門編]
【第9回】 2013年5月15日
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野中郁次郎 [一橋大学名誉教授],紺野登 [多摩大学大学院教授、KIRO(知識イノベーション研究所)代表]

「世のため人のため」の仕事観は、外国人には驚き。
「日本の当たり前」を知識経営の視点から捉え直す。
――対談:野中郁次郎×紺野登(前編)

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知識創造経営のコンセプトの生みの親である世界的経営学者の野中郁次郎氏と、野中氏の研究パートナーで『利益や売上げばかり考える人は、なぜ失敗してしまうのかーードラッカー、松下幸之助、稲盛和夫からサンデル、ユヌスまでが説く成功法則』の著者、目的工学研究所所長の紺野登氏との対談前編をお送りする。
多くの世界の企業の関心は「手段」から「目的」へと移り変わろうとしている。日本人はそうした世界の動きとどう向き合うべきなのだろうか。(構成/曲沼美恵)

ビジネスの効率ばかりを考えると、
重要な人や知識がなくなってしまう

紺野 イギリスの経済誌『エコノミスト』は、2013年のグローバルトレンド10の1つに「利益から目的へ」(From Profit to Purpose)を挙げました。世界は今まさに、目的重視の方向へと転換しています。企業経営という観点から言うと、顧客やステークホルダーから「何のためにビジネスをしているのか」をますます強く問われる時代に入ってきたと言えませんか?

野中郁次郎(のなか・いくじろう) 
一橋大学名誉教授
早稲田大学政治経済学部卒業。富士電機製造(株)勤務ののち、カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)にて博士号(Ph.D)を取得。南山大学経営学部教授、防衛大学校教授、一橋大学産業経済研究所教授、北陸先端科学技術大学院大学教授、一橋大学大学院国際企業戦略研究科教授を経て現職。カリフォルニア大学経営大学院(バークレー校)ゼロックス知識学名誉ファカルティースカラー、クレアモント大学大学院ドラッカー・スクール名誉スカラー、早稲田大学特命教授を併任。知識創造理論を世界に広め、ナレッジ・マネジメントの権威として、海外での講演も多数。論文、著書多数。

野中 そうだと思います。その目的のあり方として、最近、いろいろなところで「共通善(コモングッド)という言葉が頻繁に使われるようになってきました。一方でハーバード大学の経営学者であるあのマイケル・ポーターが、CSV(Creating Shared Value=共通価値の創出)などということを言い始めたのにも驚きました。

紺野 ポーターの戦略論「ファイブフォース」では、顧客は「売り手」に対する「買い手」という位置づけです。要するに、すべてが競争を前提とした対立関係の中で捉えられている。そのような文脈から、「顧客にとっての本来あるべき価値は何か」を重視するようなコンセプトが生まれてきたのは、確かに驚きですね。

 実はCSVのオリジナルは2005年にスイスの総合食品メーカーのネスレが打ち出したコンセプトで、ポーターと一緒にコンサルティング会社を経営しているマーク・クラマーが普及させたもののようです。

野中 ポーターが非常に優れていたのは、経済理論とマネジメントを総合した点です。ここは確かに、独自性がある。しかし、彼が作ったモデルは基本的には経済学的な独占・寡占を志向するものであって、何か新しいものを創造しようという時には役に立ちにくい面があります。

 アメリカの経営学者、デビッド・ティースなどは、ポーターの戦略論では経営者やイノベーションすら登場しないではないかと彼を痛烈に批判し、長期的成功を目指すための新しい戦略論として「ダイナミック・ケイパビリティ」というコンセプトを打ち出しています。

紺野 それは表層的な競争戦略や効率的経営にも共通する批判ですね。米国企業でも90年代に、リエンジニアリングなど、効率的経営によって一時は業績を回復したかに思えた企業が、しばらくすると前よりもひどい状態になってしまうケースが見られました。

 そのとき企業にとって最も重要な人や知識が外へ出て行ってしまい、組織の中に蓄えられていた暗黙知が急速にやせ細ってしまうという現象が見られたのです。企業経営の持続性が失われてしまうばかりか、経営にとって本来必要な社会に対する責任感や倫理観というものが、どうしても抜け落ちていってしまうのではないかと私は考えています。

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野中郁次郎 [一橋大学名誉教授]

1935年東京生まれ。早稲田大学特命教授。58年早稲田大学政治経済学部卒業後、富士電機勤務を経て、カルフォルニア大学バークレー校経営大学院博士課程修了(Ph.D)。南山大学、防衛大学校、一橋大学、北陸先端科学技術大学院大学、一橋大学大学院国際企業戦略研究科で教鞭を執る。紫綬褒章、瑞宝中綬章受章。知識創造理論の提唱者であり、ナレッジ・マネジメントの世界的権威として、米経済紙による「最も影響力のあるビジネス思想家トップ20」でアジアから唯一選出された。さらに2013年11月には最も影響力のある経営思想家50人を選ぶThinkers50のLifetime Achievement Award(生涯業績賞、功労賞)を受賞。近年は企業経営にとどまらず、地域コミュニティから国家までさまざまな組織レベルでのリーダーシップや経営のあり方にも研究の場を広げている。主な著作に、『失敗の本質』(ダイヤモンド社)、『アメリカ海兵隊』(中央公論新社)、『知識創造企業』(東洋経済新報社)など。

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紺野登 [多摩大学大学院教授、KIRO(知識イノベーション研究所)代表]

多摩大学大学院教授、ならびにKIRO(知識イノベーション研究所)代表。京都工芸繊維大学新世代オフィス研究センター(NEO)特任教授、東京大学i.schoolエグゼクティブ・フェロー。その他大手設計事務所のアドバイザーなどをつとめる。早稲田大学理工学部建築学科卒業。博士(経営情報学)。
組織や社会の知識生態学(ナレッジエコロジー)をテーマに、リーダーシップ教育、組織変革、研究所などのワークプレイス・デザイン、都市開発プロジェクトなどの実務にかかわる。
著書に『ビジネスのためのデザイン思考』(東洋経済新報社)、『知識デザイン企業』(日本経済新聞出版社)など、また野中郁次郎氏(一橋大学名誉教授)との共著に『知力経営』(日本経済新聞社、フィナンシャルタイムズ+ブーズアレンハミルトン グローバルビジネスブック、ベストビジネスブック大賞)、『知識創造の方法論』『知識創造経営のプリンシプル』(東洋経済新報社)、『知識経営のすすめ』(ちくま新書)、『美徳の経営』(NTT出版)がある。


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「手段の時代」から「目的の時代」へ――手段にとらわれすぎると、本質を見失う。リーマン・ショックの経験を経て、世界じゅうの先覚者たちが、目的の重要性を唱え始めた。まず「利益」ではなく、「よい目的」を考えるビジネスを実践するために、私たちにできることは何か。はじまった目的工学の取り組みをさまざまな形で紹介していく。

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