思いついたらすぐ行動
胡錦濤と違う習近平

「習近平研究だ。あの男がどういう人物で、何を考えているのかを知ることが、昨今の中国政治を理解する上でもっとも重要なことだ」

 以前、私が「中国民主化研究を進めるに当たり重要なことは何ですか?」とアドバイスを求めた広東省の政府官僚は私にこう回答してきた。

 胡錦濤政権から習近平政権に移行する過程における一つの特徴は、前者に比べて、後者においては国家指導者である習近平というリーダーの性格や個性が政治に色濃くにじみ出るという点ではなかろうか。

 私は胡錦濤時代の2003~12年を北京で過ごした。大学生のころから官僚主義的な共産党システムのなかで、激しい競争を勝ち抜いていくことを義務付けられる共産主義青年団出身のリーダーは、往々にして“弁が立つ”と言われる。

 胡錦濤、李克強、汪洋、胡春華……。

 共青団出身の申し子であるこの4人を含め、共産党内の会議においても自らの見解を論理立てて主張する傾向にある。その場に同席する人間を自らのロジックで説得しようとすることで快楽を得ようとする本能は、いわゆる“エリート”に共通している。

 一方で、胡錦濤政権を振り返ってみると、公の場で、目に見える政治の現場において、胡錦濤が自らの色を出そうとしたり、前任者たちとは異なった風貌やスタイルで政治をやろうとする様相ではなかった。あくまでもひとりの高級官僚として、集団決定を重んじつつ、そつなくこなす、というイメージが強かった。

「胡錦濤も李克強もよくしゃべる割には行動力に欠ける。理論ばかりばらまいても、実際に局面を切り開いていく肝っ玉が据わっていない。習近平は違う。政治局の会議でもじっと黙って同僚たちの意見に耳を傾け、安易に意見せず、最後に机を叩いて決定する。そして、迅速に行動に移す。思いついたらすぐに実行するのが習近平のやり方だ」

 “中国を統治するのに最も適したリーダーはガリ勉ではなくマフィアだ”、という持論を一貫して主張する太子党関係者は、共青団出身の代表格である胡錦濤・李克強と太子党の代表格である習近平の人物像のギャップをこのように比較する。