本連載でもたびたび登場している謎の米国新興企業、フィスカー・オートモーティブ社(カリフォルニア州アーバイン市、連載第20回参照)。

 彼らに最近、新たな動きがあった。

 それは「電動化車両の命」と言われる、リチウムイオン二次電池の購入先の変更だ。

 フィスカー初の量産車となる4ドアクーペモデル「カーマ」には当初、米エナデル社(米インディアナ州インディアナポリス)製品を採用するはずだった。ところが、2010年1月14日、フィスカーはA123システムズから「カーマ」用のリチウムイオン二次電池を購入すると発表した。

謎多きフィスカー。カーマ(写真手前)と同車コンバーチブルのサンセット(写真奥)は2010年9月に発売開始の予定

 エナデルもA123システムズも、米DOE(エネルギー省)から米国内での二次電池製造開発における低利融資を受けるなど、オバマ政権が進める「グリーンニューディール政策」の申し子といえる存在だ。エナデルはその設立から事業運営まで日本の伊藤忠商事が主導的立場で関与してきた企業であり、A123システムズはMIT(マサチューセッツ工科大学)の学内ベンチャーとして誕生した企業である。

 2009年5月の時点で、エナデルの親会社エナーワンのチャールズ・ガッセンハイマー社長は筆者に対して「フィスカーの将来性を信じている。自社製品の供給で話を進めている」と語っていた。だが、クライスラーによる同年4月の連邦破産法第11条(通称チャプター11、日本の民事再生法に相当)適用申請後、A123システムズがフィスカーへの接触を強化したと考えられる。それは、A123システムズがクライスラーの電気自動車事業計画「ENVI(Environmentalの頭文字) 」におけるリチウムイオン二次電池の主要供給先だったからだ。

 このENVIによる大量受注を見込んで、ミシガン州内での大型工場建設を決定し、そこに米政府からの低利融資を受けた。だがフィアットによるクライスラー再建計画のなかで、ENVIはあっさり廃止された(2009年11月の同社中期経営計画にも盛り込まれず)。慌てたA123システムズは、新規納入先探しに躍起になっていたのである。