成績のいい支店長と振るわない支店長
両者を分ける「着任3ヵ月の行動」とは
リーダーには「人間的魅力」も必要だ。いや、それ以上に、人間的魅力のある人こそがリーダーであるべきだ。
では、何をもって人間的魅力と言うのか。私は、その大きな部分を「信頼と安心」としている。全人格的に惚れられるようなスーパーマンであるべきだと考える人もいるかもしれないが、そんなことはない。信頼感と安心感があれば、リーダーシップの発揮には十分だと思っていい。しかし、これがないと、まともなリーダーシップの発揮はできない。
にもかかわらず多くのリーダーが、どうも、この信頼と安心というリーダーシップの第一歩をないがしろにしているように思える。
リーダーたるもの、リーダーになった瞬間からとにかく命令を下さなければいけない、人を動かさなければいけないと思うかもしれないが、うまいリーダーは決してリーダーシップの発揮を焦らない。
私は野村総合研究所にいたころに、野村證券の仕事をたくさん受託した。印象に残った仕事は数あるが、その中でも鮮明に記憶に残った仕事が、「できる支店長というのはどういうことをやる人なのか」という研究だった。これは非常に面白かった。
全国の野村證券の支店長の行動を、詳しく調べた。当然、成績のいい支店長と振るわない支店長がいるので、それぞれの特徴を明確にしていき、最終的に十数個の成功するパターンに分類することができた。
驚いたのは、その中に、成績のいい支店長ほぼ全員に共通の行動というものがあったのだ。正直、そんなものがあるとは思わなかった。
それは、赴任して最初にやることだった。これは、成績のいい支店長と振るわない支店長でずいぶん差があった。
成績の振るわない支店長は、3年間が任期だから焦りもあるのだろうけど、赴任してすぐに、「ああだ、こうだ」と命令を出す。短期間でとにかく成績を上げないといけないというので、うるさく立ち回るのだ。
当然のように前任者のやり方はことごとく否定し、前の支店で行っていたやり方を押し付ける。しかし、状況が違うので、前の支店でうまく行っていたやり方が次の支店でもうまく行くとは限らない。それがうまく行かないと、メンバーの中に不信感が募る。そうすると皆、面従腹背になる。相手は支店長なので、一応言うことは聞くけど、全然腰が入らない。新任の支店長が信頼できないのだ。
ところが、成績のいい支店長は、すぐには命令などしない。とにかく、徹底的に観察して、ヒヤリングする。社内だけではなく、取引先など社外でも聞いて回る。この行動に、3ヵ月から場合によっては半年という時間をかける。その間は、基本的に前任者のやり方を踏襲している。