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めちゃくちゃわかるよ経済学 シュンペーターの冒険編

第1次大戦下、
グラーツ大学で書いた論文11本のすべて

坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]
【第33回】 2009年1月7日
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 コロンビア大学交換教授の任期を終え、グラーツ大学へ帰任した直後の1914年6月28日、サラエヴォ事件が起きる。オーストリア-ハンガリー二重帝国、正確には「オーストリア帝国およびハンガリー王国」の皇位継承者、フランツ・フェルディナント大公夫妻がボスニアのサラエヴォで暗殺されたのである。

 犯人はセルビアの民族主義者とされ、結局、ウィーンの帝国政府は無理難題をセルビアに要求し、1ヵ月後の7月28日、宣戦布告した。

 ウィーンの皇帝フランツ・ヨーゼフはこのとき83歳という高齢だった。暗殺されたフェルディナントは皇帝の甥である。なぜ甥が皇位継承者かというと・・・。

 皇帝は、ウィーン大学のカール・メンガーが勉強を指導していた皇太子ルドルフを1889年に心中事件で失くしている。1898年には妻である皇后エリザベートをスイスで暗殺され、弟マクシミリアン1世はすでに1867年のメキシコ革命で処刑されている。

 サラエヴォで暗殺されたフェルディナントはマクシミリアン1世の息子で、動乱の時代を生き残ってきた皇位継承者であった。が、伯父の皇帝とは不仲だったといろいろな文献に書いてある(※注1)。この時期の不幸な皇帝一家については、小説、映画、ミュージカル作品として現在も上演されている(※注2)。

サラエヴォ事件がきっかけで
第1次大戦が勃発!

 大陸欧州の情勢は複雑だった。ロシア帝国、オスマン・トルコ帝国、オーストリア帝国、ドイツ帝国の利害が錯綜し、各帝国内の民族主義も激しく動いている。とくにオーストリア帝国が支配する東方のスラブ諸族の国々は、背後のロシアの後押しもあり、民族主義運動が燃え盛っている。

 また、フランス、イギリス、イタリアも国益を守り、増やそうとねらっている。三国同盟(1882)のドイツ、オーストリア、イタリアと、三国協商(露仏同盟1894、英仏協商1907で完成)の対立がある。欧州内の領土・権益争いと海外植民地の争奪をめぐる対立だ。

 さらに、欧州の帝国はすでに君主の圧制から、段階的に議会政治へ移行している。王の大権はあるが、政党の活動も大きくなっている。フランスは共和国だ。社会主義政党も増え、マルクス経済学の影響も強い。軍部の権力も強大で、政治思想、経済思想は入り乱れている。

 こうして、カオスから次の均衡へ遷移しようとしているこの時代に、オーストリア帝国内の民族主義の火の手が世界大戦の導火線に火をつけたわけだ。基本的な構図は三国同盟と三国協商の戦いだが、イタリアは中立を宣言し、後に英仏側につくのだから複雑怪奇である。

 トルコは利害得失の計算から三国同盟について、それぞれ次々に宣戦布告していった。日本も8月にドイツへ宣戦布告しているのだから、戦火は中国のドイツ領に及んだ。アメリカの参戦は1918年である。

 双方ともに戦争は短期間で終わると考えていたというが、1918年11月まで、実に4年4ヵ月も続いた。欧州経済は崩壊寸前である。

 ロシアとドイツ、オーストリア、トルコが対峙する東部戦線と、フランスとドイツが対峙する西部戦線が形成された。つまり、主戦場はこの2つの長い戦線にあった。他にもバルカン半島とイタリアにも戦線ができたが、東部戦線と西部戦線に比べればサイズは小さい。

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坪井賢一 [ダイヤモンド社論説委員]

1954年生まれ。78年早稲田大学政治経済学部卒業後、ダイヤモンド社入社。「週刊ダイヤモンド」編集長などを経て現職。著書に『複雑系の選択』『めちゃくちゃわかるよ!経済学』(ダイヤモンド社)『浦安図書館を支える人びと』(日本図書館協会)など。


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「経済成長の起動力は企業家によるイノベーションにある」とする独創的な理論を構築したシュンペーターの発想の冒険行を、100年前のウィーンから辿る知の旅行記。

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