前編に続き、元航空自衛隊空将で、現在は米ハーバード大学アジアセンターシニアフェローの小野田治氏と、国際コラムニストの加藤嘉一氏に、集団的自衛権の議論をお届けする。両氏はアメリカで日本政治の専門家や軍事、安全保障、北東アジアの国際関係の専門家と日々接しているからこそ、日本に対するアメリカの視線が見えてくる。話を聞くと、想像以上に日本に対する厳しい視線があるようだ。(構成/ダイヤモンド・オンライン編集部 片田江康男)
議論はジャパニーズミステリー
アメリカにとって行使容認は当然
――日本の集団的自衛権について、アメリカではどう見られているのでしょうか。
加藤 日本ではこれだけ話題になっていますが、アメリカの学者や識者と話していると、「集団的自衛権? 当然行使すべきでしょう。That's it」みたいな雰囲気ですよね。
1954年神奈川県生まれ。防衛大学航空工学科(第21期)卒。77年10月第一警戒群(笠取山、三重県)に勤務。79年3月第35警戒群(経ケ岬:京都府)保守整備部門の小隊長。82年12月警戒航空隊(青森県三沢基地)警戒航空隊の部隊建設に従事。保守整備部門の小隊長。89年8月航空幕僚副長副官(東京都市ヶ谷基地)。96年8月防衛研究所第44期一般課程(東京都目黒基地)。99年3月航空幕僚監部防衛課装備体系企画調整官(東京都桧町基地)。00年8月第3補給処資材計画部長(埼玉県入間基地)。01年8月航空幕僚監部防衛課長(東京都市ヶ谷基地)。02年12月第3補給処長(埼玉県入間基地)。04年8月第7航空団司令兼百里基地司令(茨城県)。06年8月航空幕僚監部人事教育部長(東京都市ヶ谷基地)。08年8月西部航空方面隊司令官(福岡県春日基地)。10年12月航空教育集団司令官(静岡県浜松基地)。12年7月勧奨退職。
小野田 まさに、そうですね。
加藤 アメリカでは基本的に「憲法改正するのか、解釈変更するのか、それは貴国の内政問題だ。ただ、われわれは同盟国としての日本にしかるべき役割を求める」という雰囲気です。英語では「It's your own business」という文言が使われることが多いですね。アメリカでは「日本は集団的自衛権行使を容認すべきか」という論点での議論は起こりえない状況でした。
小野田 日本がどうすべきかという議論にはなりませんでした。議論の余地はないんでしょう。私もそういう印象を受けています。
アメリカで私がよく聞かれるのは、「日本で集団的自衛権の議論が盛り上がっているが、その本質は何か」ということです。
アメリカの日本政治専門家は、「安倍政権は集団的自衛権行使容認には至らないのではないか」と見ていたようです。米国では全体の戦略が策定され、そこからブレイクダウンして個別の具体的な政策がつくられていきますが、日本の場合は、ともすると本質から外れた細かな点に議論が集約されてしまって、議論が混迷して深まっていかないということを知っているんだと思います。
そういう日本の議論の特徴を知らない、日本の専門家ではない学者の方々は、混迷している日本の議論を見て、「本質は何だ? この議論はジャパニーズミステリーだ」って思っているようです。
――そうすると、アメリカの安全保障の専門家には、かなり冷ややかに見られているんでしょうか。
小野田 はい、かなり冷ややかですね。同時に、アメリカ人はかなり不安な目で見ているようです。つまり、日本が集団的自衛権について議論をすればするほど、集団的自衛権の内容や運用を狭めてしまうのではないかということです。
アメリカは「日本の集団的自衛権って、そんなに小さなことになっちゃったの?」ということになるのを恐れていますね。