麹町経済研究所のちょっと気の弱いヒラ研究員「末席(ませき)」が、上司や所長に叱咤激励されながらも、経済の現状や経済学について解き明かしていく連載小説。今回は、金融政策を取り上げます。(佐々木一寿)

「不況のときに行う積極的な財政政策は、別名『ケインズ政策』とも呼ばれていて*1、それが効果的なこともある*2半面…」

*1 有効需要を生み出す投資や消費をする人が少なくて、景気が後退した場合、国や行政府が財政政策を行って、有効需要を生み出すべき、という方法論で、ケインズが先駆けて提唱した。詳しくは、第18回を参照
*2 有効需要は、乗数効果を産んで波及する。詳しくは、第19回を参照

 大学生のケンジは、前節の内容をアタマのなかで整理しながら、質問する。

「超絶的な賢人たちが清廉な動機と驚くべき洞察力をもってやらないと*3、効果が少なくなったり、逆に不公平になるかもしれないってことはよくわかったのですが*4、ほかにいい方法もあるって聞きましたけど、それって何ですか?」

*3 たとえば、ケインズが育った、ケンブリッジ大学のあるハーベイ・ロード界隈に集まるような気鋭の碩学たちが、私心なく理想的に財政政策を行うという状況を指す。詳しくは、第20回を参照
*4 これがいわゆる「ハーベイ・ロードの前提」と言われるもの。それは理想的かもしれないが、かなりハードルが高いのではないか、という含意が込められてもいる。詳しくは第20回を参照

 経済学のレクチャーのしがいのある大学生だなケンジくんは。そう感心しながらガイド役を買ってでている末席研究員は答える。

「じつは、政府がおカネを使うのではなく、私たちみんながおカネを借りやすいようにすればいいのではないか、というアイデアです!」

 ケンジの叔父である嶋野主任研究員は「うん、うん」と頷いているが、肝心のケンジの頭のなかは、疑問符でいっぱいだ。

 ケンジは続けて質問する。