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田岡俊次の戦略目からウロコ

開戦100年!第1次世界大戦の教訓

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第34回】 2014年8月7日
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今年は第1次世界大戦が始まって、ちょうど100年に当たる。8月はまさに戦火が欧州に拡がった月だ。大戦の直接の引き金は、1914年6月にボスニアの州都サラエボでオーストリア・ハンガリー帝国の皇太子夫妻が暗殺されたことだが、わずか1週間で世界大戦に発展したのはなぜか。その過程と、それ以前の戦争に比べてケタ違いの死傷者を生み出した背景を探ることで、現代への教訓を考えてみる。

世界史の転換点

 1914年8月は第1次世界大戦の戦火が欧州に拡がった月である。その100周年に当たって欧州各国では記念行事が盛大に行われる一方、甚大な惨禍を招いたこの戦争の原因などについて論議が再燃している。日本も日英同盟を理由に参戦したが、中国・山東半島のドイツ租借地だった青島の要塞を2週間で攻略し、青島を脱出してインド洋で通商破壊を行っていた軽巡洋艦「エムデン」を追いかけ、地中海での輸送船護衛に巡洋艦2隻、駆逐艦12隻を派遣しただけで、人的損害は死者350人、負傷者900人程度だったから、日本では第1次世界大戦はほぼ忘れられている。

 だがこの戦争はドイツ、オーストリア・ハンガリー、トルコ、ブルガリアの4ヵ国(動員兵力2285万人)に対し、ロシア、フランス、イギリス、イタリア、アメリカ、日本、ルーマニア、セルビア、ベルギー、ギリシャ、ポルトガル、モンテネグロの12ヵ国(動員兵力4219万人)が戦い、軍人の死者853万人、負傷者2119万人、民間人の死者775万人、計3747万人もの死傷者が出た大戦争だった。その結果ドイツ帝国、オーストリア・ハンガリー帝国、ロシア帝国、オスマン・トルコ帝国が崩壊し、戦勝国の主役だったイギリス、フランスも大打撃を受け、ヨーロッパの衰退をもたらして世界史の転換点となった。

 1918年11月11日にドイツは力尽きて降伏し、翌1919年6月パリ郊外のヴェルサイユ宮殿で講和条約が調印されたが、そのとき連合軍総司令官のフランスのフェルナンド・フォッシュ元帥は「これは平和条約ではない。20年間の休戦だ」と予言した。その通り1939年に第2次世界大戦が勃発した。日本とイタリアがドイツ側に回ったが、他の敵味方の配役は第1次世界大戦とほぼ同じで、休憩時間を挟んだサッカーの前半、後半に似て一連の「世界大戦」だったから、第2次世界大戦で惨敗した日本にも、第1次世界大戦は大きな影響を与えた、と言えよう。

交差点で急停車したところに刺客

 この戦争の直接原因は1914年6月28日にオーストリア・ハンガリー帝国(以下オーストリアとする)皇太子フランツ・フェルディナンド大公(52)とその妃ゾフィー(43)がボスニアの州都サラエボでボスニア人青年ガブリロ・プリンチップ(19)に拳銃で射殺された事件だ。バルカン半島は1520年代から約300年オスマン・トルコ帝国の版図だったが、トルコの衰退に乗じてギリシャが1829年に独立し、セルビアも反乱、内戦ののち1878年に欧州諸国のベルリン会議で独立が認められた。

 だが、バルカン諸国の独立の背後には何度もトルコと戦い、圧迫して南下政策を進めたロシアがいた。バルカン半島の民族の多くはスラブ系で、宗教もロシアと同じキリスト正教だから好都合だった。もしセルビアがアドリア海の沿岸部も領有すればロシアが地中海に進出する、と案じた欧州諸国は海に面したボスニア、ヘルツゴビナの2州を名目上トルコ領として残し、当時欧州有数の大国で、ボスニアの北のクロアチアを領有していたオーストリアが占領し行政権を握る、と決めた。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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