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多彩な分野の専門家による知識がコンパクトにまとめられた「新書」。高橋昌一郎氏が責任を持って選び抜いた価値ある新書100冊の中から、この記事では、『宇宙は数式でできている』と『フォン・ノイマンの哲学』の2冊を紹介する。※本稿は、高橋昌一郎『新書100冊 視野を広げる読書』(光文社)の一部を抜粋・編集したものです。

地球外生命体との交信は
2進法と素数が用いられる?

『宇宙は数式でできている』(朝日新書)を読んで筆者はこう思う。

書影『宇宙は数式でできている』(朝日新書)

 ある日、25光年離れたベガ星系から地球に電波信号が届く。その信号は2進法で「2・3・5・7・11・13・17・19・23…101」と素数を順番に並べ、再び最初に戻って繰り返す。これが、人類が最初に宇宙の知的生命体から通信を受け取ると想定された場面の感動的な描写である。その続きはどうなるか?

 ぜひ天文学者であり作家でもあったカール・セーガンのSF小説『コンタクト』か、あるいは、それを原作とする同名の映画をご覧いただきたい。

 さて、「素数」は「正の約数が1とその数自身の2個だけの自然数」と定義される。宇宙人は「素数」を「2進法」のビーコン信号で送信する設定だから、セーガンは、宇宙人も地球人と同じ「数学」を理解していることを前提に小説を書いたわけである。現実に、セーガンが推進した「地球外知的生命体探査(SETI)」では、今も「数学的規則性」の有無を最大の論拠として電波を探査している。

 その「数学」とは何か?なぜ「数学」で宇宙を詳細に記述でき、未来を高精度に予測できるのか?「数学」は普遍か?「数学」は宇宙か?「数学」は万能か?

 これらの問題は「数学の哲学(数学基礎論)」と呼ばれる分野で、とくに20世紀以降に研究されてきたが、実は、今も難解な論争が続いている(その詳細な意味については、拙著『20世紀論争史』をご参照いただきたい)。

 この論争を非常に大まかに単純化すると、数学者は数学的真理を「発見する」という立場(数学的実在論)と「発明する」という立場(数学的経験論)に分けられる。

 本書は「数学的実在論」をさらに推し進めて「数学的な論理体系と実在する宇宙は同じものであるという過激な可能性」を主張する。かつては一般相対論の数学的な解にすぎなかった「膨張宇宙」や「ブラックホール」や「重力波」が実際に観測された。地球外知的生命体も「必ずや微分積分などの数学や一般相対論に対応する物理学は持っているはず」だというのが、本書の著者・須藤靖氏の主張である。