テレビ番組のロケを終えて、ノルウエーから帰国したのは3日前。ほぼ1週間の滞在だった。
NHK―BSで放送されるこの番組のタイトルは『未来への提言』。NHKのサイトから、その内容と趣旨の一部を引用する。
「21世紀の人類が抱える共通の課題について、世界のキーパーソンに徹底インタビューし、未来を切りひらくヒントを探り、道しるべを提示するシリーズです。環境問題、平和の構築、最先端科学、エイズ撲滅、医療、未来学、教育など様々な分野で活躍するキーパーソンに、日本を代表するその道の専門家がじっくりとロングインタビューを行い、とっておきの未来への提言を聞き出します。」
今回のテーマは厳罰化。文中にある「日本を代表するその道の専門家」が森達也。自他共に認める方向音痴としては、その道をちゃんと歩けるかどうか心配になる。ただし、厳罰化については(専門家ではないけれど)、オウム以降のこの社会の急激な変化と合わせながら、指摘したいことは確かにたくさんある。そして今回の「世界のキーパーソン」は、ノルウエーの犯罪学者であるニルス・クリスティだ。
クリスティの書籍は、日本でも何冊か翻訳されている。最新刊のタイトルは『人が人を裁くとき~裁判員のための修復的司法入門』(有信堂)。サブタイトルにはいかにも今風に「裁判員」という言葉が入っているけれど、もちろん日本の裁判員制度について書かれた本ではない。危機意識と犯罪加害者への憎悪や恐怖、そして市場原理に支配されながら厳罰化する世界的な傾向に真向から異を唱え、刑罰の本質は報復や苦痛を与えることではないとの観点に立ちながら、「赦し」の意味や「修復的司法」の可能性を訴える1冊だ。
9.11以降、過剰なセキュリティ状態に陥った世界は、強い厳罰化の傾向にある。アメリカではこの40年で、刑務所に拘禁される囚人の数が約6倍に増大した。その総数は2008年始めで231万9258人。国民の100人に1人が囚人ということになる。黒人やヒスパニック系では、この割合がさらに上昇する。親戚のうち必ず数人は刑務所にいるという状態だ。特にワシントン州やカリフォルニア州では、犯罪被害者遺族の運動がきっかけとなって、どんなに軽い罪であっても再々犯で起訴されたらその段階で無期懲役という3ストライク制度を導入した。たとえば万引きで3回検挙されたら、その時点で無期懲役が決定する。オーウェルかカフカあたりが書きそうな世界だけど現実だ。
厳罰化が進行すれば、当然ながら刑務所は過剰収容となる。受刑者の更生や矯正どころではない。刑務所によっては、体育館のような広いスペースに受刑者をただ押し込めているだけというところもあるらしい。暴動も頻繁に起きている(つい最近もカリフォルニアの刑務所で暴動が起きて火災が発生したとの報道があった)。受刑者同士の情報交換の場になっている刑務所もあるという。