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田岡俊次の戦略目からウロコ

ガザ地区紛争で停戦の合意が成立 
米国は「ダブルスタンダード」の転換できるか

田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]
【第35回】 2014年8月28日
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中東のガザ地区を巡る紛争で、イスラエルとイスラム過激派ハマスと間で、停戦の合意が成立した。合意の詳細は不明で、今後の交渉で決まる事項も多い様子だが、停戦の永続化の鍵を握るのは米国だ。米国の対イラクやウクライナ問題とガザ問題を比較してみると、米国の「ダブルスタンダード」が浮かび上がってくる。もし、米国がこの姿勢を転換し公平、中立の調定者となれば、中東だけでなく、世界的に米国の威信は高まり、国益にも資するはずだ。

ガザ側の死者はイスラエルの30倍

 エジプト国営の中東通信は8月26日、ガザを支配しているイスラム過激派ハマスとイスラエルがエジプト案に基づく停戦で合意した、と報じ、のちイスラエル、ハマス双方の高官もそれを確認した。停戦は現地時間26日午後7時に発効し、ガザでは住民が街頭に繰り出し、祝賀の銃声も響いた。

 これまでにも時間を限った一時的休戦は5回あったが戦闘が再開されてきた。今回は期限を定めない停戦で、ハマス幹部は「長期的な停戦で合意した」と語り「勝利」を主張していることからも、今度の停戦は本物と期待される。合意の詳細は不明で、今後の交渉で決まる事項も多い様子だが、イスラエルはガザへの物資搬入の規制緩和やガザ沖での漁業許可水域の拡大に合意した、とも伝えられる。ハマスはこれまでガザとイスラエル間の検問所の国際管理、漁業水域の拡大、国連監督下での港と空港の再建、逮捕者の釈放、などの要求をしていた。

 7月8日にイスラエル軍機がガザ爆撃を開始して以来50日続いた戦闘(地上侵攻は7月17日から)でガザ地区の住民2140人(うち子ども490人余)が死亡し、負傷者は1万人以上とみられる。一方、イスラエル側の死者は兵士64人と民間人6人の計70人にすぎない。ガザ地区の住民の死者はイスラエル側の30倍余だ。

 イスラエルの右派は以前から「イスラエルと対立する周辺国の人口比は約1対30(イスラエルの人口は764万人、当面敵対関係にないエジプト、ヨルダンやイスラエルと国境を接していないイランを含め周辺諸国の人口は2億2300万人余)だから、イスラエル人死者1人に対し、相手の30人を殺さねばならない」と説いてきた。今回のガザ攻撃の死者の比率はその冷酷な「目標」を達成したと言えよう。

 これは「戦争」と言うよりほとんど一方的殺戮だ。1879年7月、イギリス軍が南アフリカのズールー王国と戦った「ズールー戦争」の決戦となったウルンディの戦いでは、後装式ライフルを持つ英国人兵4200人と黒人兵1000人の英軍に対し、投げ槍を主な兵器とする約1万人のズールー族部隊が対決し、英国人兵の死傷者は100人だったがズールー族は1500人の死者を出した。今回のガザ攻撃でのアラブ人死亡者の比率はそれ以上だ。イスラエル軍は避難者が比較的安全と考えて集っていた国連が開設した3つの学校にも容赦なく砲撃、爆撃を加え(7月24日、30日、8月3日)計約40人を殺した。

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田岡俊次 [軍事ジャーナリスト]

1941年、京都市生まれ。64年早稲田大学政経学部卒、朝日新聞社入社。68年から防衛庁担当、米ジョージタウン大戦略国際問題研究所主任研究員、同大学講師、編集委員(防衛担当)、ストックホルム国際平和問題研究所客員研究員、AERA副編集長、編集委員、筑波大学客員教授などを歴任。動画サイト「デモクラTV」レギュラーコメンテーター。『Superpowers at Sea』(オクスフォード大・出版局)、『日本を囲む軍事力の構図』(中経出版)、『北朝鮮・中国はどれだけ恐いか』など著書多数。


田岡俊次の戦略目からウロコ

中国を始めとする新興国の台頭によって、世界の軍事・安全保障の枠組みは不安定な時期に入っている。日本を代表する軍事ジャーナリストの田岡氏が、独自の視点で、世に流布されている軍事・安全保障の常識を覆す。さらに、ビジネスにも役立つ戦略的思考法にも言及する。

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