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野口悠紀雄 2040年「超高齢化日本」への提言

介護保険に欠けている視点
――高額資産保有者への給付を制限すべきだ

野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]
【第12回】 2014年9月4日
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 現在の介護保険にはさまざまな問題がある。そのいくつかは、すでに指摘した。介護をめぐる客観情勢が今後ますます深刻になることを考えれば、制度の基本についての再検討が必要だ。

伝統的社会での介護は
家族内移転

 介護に関する公的施策がいかなるものであるべきかを考えるため、まず伝統的社会が介護問題にどのように対処したかを、様式化した姿で見ておこう。

 伝統的社会においては、家族メンバーに要介護者が発生した場合、子どもが世話をした。その「対価」に相当するものを、子どもは相続という形で受ける。つまり、これは、家族内の相互扶助であり、移転である。

 ただし、介護に要する費用はその家族の負担になるから、介護を行なった場合には、それだけ遺産が減ることになる。

 ところが、核家族化が進行して、介護を伝統的な家族メンバーの相互扶助という形だけでは行なえなくなった。それに加え、平均余命の延長と少子化が介護を困難にした。そこで介護保険制度が作られたわけである。

 これまで見てきたように、家族メンバーが提供してきたサービスの約2分の1が、保険給付によって代替されたと考えられる。

公的主体の責任は
どこまでか?

 ただし、介護保険制度の基本理念は必ずしも明確でない。「介護保険は、介護のうちどこまでを受け持つべきか?」がはっきりしないのである。

 国や地方公共団体の責任は、介護に関して、そのすべての面倒を見ることではない。実際、現状でも、実際にかかる費用のほぼ半分は、家族メンバーが提供している。

 公的主体の果たすべき機能は、つぎの2つであると考えられる。

 第1は保険機能。つまり、民間では対処できないリスクへの対処である。

 第2は所得再分配機能。つまり、所得の低い人や、介護サービスを提供してくれる家族メンバーがいない人にサービスを提供することだ。

 まず、第1の保険機能を考えよう。介護のかなりの部分を民間の保険で対処することは、原理的には考えられなくはない。

 人々は、労働期において、将来に要介護状態になる危険に備えて、民間の保険会社が提供する介護保険に加入する。そして、老年期において実際に要介護状態になったら、保険の給付を受けるのである。

 明示的な形の保険でなくとも、資産の蓄積で対処することもできる。介護の必要度はある程度は予測できるから、どの程度積み立てるべきかも、ある程度は予測できる。ただし、不動産や金融資産の蓄積は、リスク対処という意味では、保険に及ばない。

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野口悠紀雄 [早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問]

1940年東京生まれ。63年東京大学工学部卒業、64年大蔵省入省、72年エール大学Ph.D.(経済学博士号)を取得。一橋大学教授、東京大学教授、スタンフォード大学客員教授、早稲田大学大学院ファイナンス研究科教授などを経て、2011年4月より早稲田大学ファイナンス総合研究所顧問、一橋大学名誉教授。専攻はファイナンス理論、日本経済論。主な著書に『情報の経済理論』『財政危機の構造』『バブルの経済学』『「超」整理法』『金融緩和で日本は破綻する』『虚構のアベノミクス』『期待バブル崩壊』等、最新刊に『仮想通貨革命』がある。野口悠紀雄ホームページ

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野口悠紀雄 2040年「超高齢化日本」への提言

日本社会は、世界でも稀に見る人口高齢化に直面しており、このため、経済のさまざまな側面で深刻な長期的問題を抱えている。とりわけ深刻なのは社会保障であり、現在の制度が続けば、早晩破綻することが避けられない。この連載では、人口高齢化と日本経済が長期的に直面する問題について検討し、いかなる対策が必要であるかを示すこととしたい。

「野口悠紀雄 2040年「超高齢化日本」への提言」

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