憲法は「国の一番大事なルール」である。連載も終盤の今回は、憲法の本質について触れてみよう。
憲法を守らなければいけないのは誰なのか。なぜ、「憲法に国民の義務を増やそう」という主張は「おかしい」のか。
憲法の本質を知れば。その答えが見えてくる。
「憲法は権力に向けられたもの」の意味
大学の講義ではポッカリと落ちてしまうことがありますが、まず、最初に確認しておかなければならないことは「憲法は権力に向けられたもの」ということです。
憲法といえば「国の一番大事なルール」ということは誰でもが知っています。しかし、「だから国民は憲法を守らなければならない」と早合点してはいけません。憲法は、国民に向けられたものではなく、権力を持つ者に向けられたルールだからです。「こうした人権は必ず守りなさい!」と国民が権力に向けて出した指示書が憲法の本質なのです。
憲法を理解するためには、まず憲法が大切にしている価値を理解することが大事なのですが、憲法では「権力に向けられた人権保障のための規定」という性格がその価値に当たります。条文の技術的な解釈など後回しにして、徹頭徹尾「人権保障のための指示書」としてその意味を理解することが先決です。この憲法の大枠を理解できていないと何も始まりません。
公務員にしろ、政治家にしろ、裁判官にしろ、これらの人たちは権力を支える仕事をしているのですから、この指示書を国民からつきつけられた存在です。その証拠は憲法99条にあります。この99条には憲法を守るべき義務を課すべき者が挙げられていますが、そのなかに「国民」の名前はありません。
○憲法
第99条 天皇又は摂政及び国務大臣、国会議員、裁判官その他の公務員は、この憲法を尊重し擁護する義務を負ふ。
「国民が権力に向けて出した指示書」それが憲法の本質だとわかれば、人権保障の規定が中心になっていることも当たり前のことです。
「憲法には国民の義務規定が少なすぎる。国民の義務規定が少ないから、いい加減な国民が増えるんだ」なんていう議論がおかしいことも分かるでしょう。さらにいえば、憲法を決定する権限が国民にしかないことも分かってもらえるはずです。