2008年10月末にまとめられた追加経済対策において、介護職員の賃金引き上げを目的として、介護報酬を09年4月から総枠で3%アップすることが盛り込まれた。これに基づき、政府は09年4月から介護報酬を引き上げた。
これまで3年ごとに見直されていた介護報酬額は、03年度にマイナス2.3%、06年度にマイナス2.4%と、いずれも削減されてきた。介護報酬のプラス改定は、介護保険制度が開始された2000年以来初めてのことだ(*注1)。
これまで介護の問題は、介護という枠内においてのみ考えられることが多かった。今回の件で、経済問題や雇用創出との関連で、介護の問題が考えられるようになった。これは、重要な変化だ。
社会保障は制度が複雑なため、専門家でないとわからない点が多い。そのため社会保障問題は専門家だけで議論されることが多かった。そうなるのはやむをえない面もある。しかし、社会保障制度はほとんどの人が関係する制度であり、しかも巨額の費用を扱う制度であるため、経済全体とのかかわりはきわめて重要だ。
前回議論した年金と雇用の問題もそうであるが、同様のことは年金以外の社会保障についても言える。したがって、社会保障の専門家の議論だけでは十分でない場合が多い。以下で考える介護についても、同じことが言える。
* 注1 2008年度第2次補正予算で1200億円の基金を創設し、原則として、2009年度は介護報酬のプラス改定に伴う保険料値上げ分の全額を、2010年度は半額を補填することとした。政府は、これにより、介護職員の賃金が平均月2万円増え、現在約120万人の介護職員が10万人程度増えると見込んだ。ただし、アップ分が介護職員の待遇改善につながっていないという指摘がある。
介護サービスの需要と供給
言うまでもなく、介護サービスに対する需要は大きく、これからも増大する。それにもかかわらず、介護のためのマンパワーが確保できない。これが介護の大きな問題である。
まず、介護サービスに対する需要と供給について、実態がどうなっているかを見ておこう。現在の日本には、65歳以上人口が、約3000万人いる。これが、2025年には3600万人を超えると予測されている。
他方で、厚生労働省の「介護保険事業状況報告(全国計)」によれば、要介護(要支援)認定者数は、2000年度末には256万人であったが、07年度末では、453万人になった。